「うう、寒い」
「大丈夫ですか?伊澄ちゃん」

体を温めるようにさする伊澄。春歌はタオルで濡れている伊澄の髪を拭いた。
梅雨だから雨は仕方ないが今日は特に酷い。勢い良く斜めに降って来る雨に傘一本ではどうにも出来ず、伊澄は濡れながら早乙女学園に来た。

「そうだ、ドライヤー!部屋から取って来ます!」
「ありがとう」

礼を言うが早いか春歌は教室を走って出て行った。教室から寮は走っても結構な時間が掛かる。春歌が慌てて転ばないかと心配になった。

「春歌大丈夫かな…さむー」
「月城」
「ん?」
「使え」

今まで無表情で見ていた聖川真斗は伊澄に近寄り自分のブレザーを渡した。
返事も聞かず押し付けるように伊澄の手に乗せるとすたすたとまた自分の席に戻った。机にある本を手に取り読み始める。伊澄は「ありがとう!」と礼を言うと袖は通さずそれを羽織った。

「髪でちょっと濡れちゃうかもしれないけど」
「基本ブレザーは着ていないから気にしなくていい」
「優しいんだ」
「…なんの話だ」
「見た目すごく我関せずって感じなのに。けど協調性あるし。ギャップってやつね」

親切にしてくれたのに冷たい人だと思ったと言う伊澄に複雑そうに目を逸らす真斗。いや、ただ照れているだけかもしれない。

「その協調性をあの人にもあったらいいのにね」
「あの人?」
「んーとね」

伊澄が口を開くとバタバタと走って来る音が聞こえた。春歌が戻ったのかとお互いドアに視線を移すと入って来たのは音也で。

「うわー、半分濡れた!」
「おつかれ」
「あ、伊澄来てたんだ……って」
「ん?」

伊澄を見ると目を少し見開いた音也。いつの間にか笑顔が消えている。
伊澄が座っている椅子の前の机に寄りかかると見下ろす体制になった。

「誰の?それ」
「…これ?聖川くんが貸してくれたの」かけていたブレザーをつまみ笑う。言うと同時にそういえば伊澄専用の服が学園に置いてあったことを思い出す。全て男装用のだが。今度から非常時にはそれ着よう、と一人頷いた。

「ふーん」
「え、あ、ちょっと!」

笑いの消えたまま音也は伊澄の肩にかかっているブレザーを取った。そして真斗のところへ歩き出す。

「ありがとう、マサ」
「…ああ」

なぜ一十木が?と不思議そうな顔をしつつ笑顔の音也に何も言わずブレザーを受け取る。カーディガンタイプの彼は受け取るがそれを着るわけでもなく鞄にしまった。
そして持っていた本に視線を戻した。伊澄との会話ももうおしまい、ということだろうか。少し残念に思っていると戻ってきた音也がブレザーを脱ぎ「はい」と差し出した。

「…?これさっきと変わらなくない?」
「今まで着てたからあったかいよ」

そういう問題なのか。普段から着てない聖川くんのブレザーは人肌はないから、みたいな?
ハテナマークを出しつつやっぱり笑顔の音也に何も言えず。断るのも変だとそれを受け取った。

「確かにあったかい」
「良かった!」

伊澄の呟きに音也は満足そうににっこりと笑った。


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