「爆豪くん、貰ってください」
「いらねぇよんなもん」
「………」
本日はバレンタイン。あの人に泣かされた人は何人目だろう…。あんなに怖いのにモテるのだ。不思議だ。
かくいう私も、せめて今年だけでも貰ってくれないかな、と僅かな希望を持って作ったチョコが鞄の中に入っている。結局それは陽の目を見ることなく終わりそうで、ため息をついた。
爆豪くんが、ロッカーへ向かう。
「………」
私はなんとなくそれを眺めていた。面と向かって渡しても受け取ってくれない女子たちの考えることは、恐らく一つ。
ガチャ
どさあああぁ
「…やっぱり」
よく入ったなというくらいに詰め込まれたチョコ、チョコ、チョコ。
これには流石に爆豪くんもブチ切れて舌打ちの連続だ。これが学校じゃ無かったら彼は雄叫びを上げてるんだろうなあとのんびり考えた。
見てるだけなのも可哀想なので、助けてあげよう…。
偶然持っていた空の袋を開けて、廊下に転がったチョコ達にそこに入るように頭の中で指示を出す。
そうすると、チョコの包みに細っこい足が生えて大行進を始めた。チョコ達はどんどん袋の中へ入って、その足をたたんでいく。
「…神崎」
「あ、ごめん…爆豪くん。こっちの方がはやいと思って」
「…全部捨てんぞ」
「いや、せめて貰ってあげてよ…皆、爆豪くんが好きなんだよ」
「関係ねぇ」
…うーむ本当に爆豪くんらしい。捨てるのはいささかやり過ぎでは…と思うけど、結局家に帰ってから捨てるか学校で捨てるか、なんだろうな。
「はい、おしまい」
「………」
「嫌な顔せずに。ほら、チョコが泣いてるよ」
袋の中を開けて、ぴええぇんと泣き声を上げるチョコ達を爆豪くんに見せる。勿論、私の個性。
「お前が泣かせてんだろ」
「違うよ。泣くのはこの子達の素直な気持ち」
「あーー…クソ、」
「ありがとう」
手元から袋をひったくった爆豪くんは、少し拗ねた表情で私を振り返った。
「…お前のは、ねぇのかよ」
「…え?」
いやいやまさか。数多の女子のチョコを「いらねぇ」と一蹴してきた爆豪くんがまさか私のチョコを待っているなんて…
あるわけ、
「全部聞こえてんだよバカ。…それだろ」
「え? あ!」
足元を見れば、今にも爆豪くんの元へ走り寄ろうとする私のチョコ!
感情によって随分左右されてしまうのが私の個性の欠点…というか制御の問題。
「あ…」
チョコの歩みを止められず、チョコは持ち主の私はスルーして真っ直ぐ爆豪くんの元へ。
爆豪くんはしゃがむと、足元でぴょんぴょん跳ねるチョコに手を伸ばし。チョコはそれに応えるようにその差し出された手にしがみついた。
「神崎のだけありゃいい」
「え、」
「やる」
ぐい、と先ほど私がチョコを詰めた袋を渡されて。私のチョコは爆豪くんの手の上にちょこんと座っていて。
「ちょっ、ちょっと待って―――!!」
爆豪くんは立ち尽くす私を置いて何処かに行ってしまった。私の叫び声は廊下に虚しく響いて。
結局、私の希望を込めたチョコは状況もよくわからないまま、目当ての本人へと貰われていったのでした。
20150213
―――
アトガキ
神崎の個性は、
物に少しの間意思?意識?を与える
神崎の言うことは大概聞く
というものです
チョコが歩くっていっても、
裸で歩いてるわけじゃなくて包みが歩いている感じです
爆豪くん難しいのに書きたいキャラなんですよね…
本当に似てなくて申し訳ないです
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