「轟くん!」
「私のチョコ貰ってください!」
こ、今年こそは。
「轟くーん!」
今年こそは、チョコを…
「私のもあげるー!!」
今年こそは、チョコを轟くんに渡すのだ!!
「私のも貰ってー!」
………
「相変わらず大人気な轟くん…女子の壁で本人が見えないよ…」
今日はバレンタイン。世の女子はもう本命なんだか友チョコなんだか義理なんだかわからないチョコを配り歩く日だ。
…私にとっては、3度目の正直。中学から轟くんを眺めているだけだった私が、とうとうチョコを渡す決心をした日。
特待生として雄英に行く轟くんが持て囃される中、こっそりと普通科に合格してしまった私は中学と変わらず轟くんを眺められると喜んだ。
…でもそれだけじゃあだめだ!! と気付いた。眺めてるだけじゃ轟くんは一生こっちを向かない。眺めているだけでいいの…なんていう女子で収まるつもりはない。どうせなら! 当たって砕ける!!
「…ってこれ、駄目元じゃないからね…?」
当たって砕けちゃダメだ。当たって可能性を作らないと…!!
「轟くん!」
ああ、遠い。あの壁は高さも厚さも一筋縄ではいかない。ロッカーや靴箱に入れるなんて生温い、手渡し一本に絞る! と決めたものの、あの女子をかき分けて行こうとは思えないのが現状だった。
結局、A組の教室を入り口から眺めているだけ。
「…邪魔だ」
「わっ! ご、ごめんなさい…」
こっ、怖い!! ヒーロー科怖い!! 邪魔だって言い放った頭爆発した人は、轟くんの周りに出来た人集りを見て、「…うっせぇ」と呟き舌打ちをして席についた。
「…!」
足を机に乗せて…!!!
怖い。ヒーロー科怖い。
そんなことを思いながら時計を見れば、もう一限が始まりそうな時間だった。ああ、戻らないと。
「………」
―――
「はあ…」
結局渡せなかった…。情けない、私。何とか隙をつこうとしたけれど、轟くんの行く先々で女子が待ち伏せていて、渡すどころじゃ無かった。もう放課後で、人もまばらな校舎で私は落ち込んでいた。
轟くんへ、と書かれた包みを持って、もう一度ため息。ああ、さようなら3度目の正直…
ドン
「わっ!? ご、ごめんなさい…」
考え事をしていたら、誰かにぶつかってしまった。慌てて持っていた包みを確認したけれど、無事だった。良かった…
「…悪い」
その声に反応して、顔を上げれば。
「とっ、轟くん…!?」
「…神崎」
本日の目標が目の前に。
「わっ、私のこと知ってるの…?」
名字で呼ばれて心臓が跳ねた。中学で特に接点もなく、一度しか話したこと無いのにまさか一発で呼ばれるなんて想像もしてなかった。
「知ってるも何も、中学一緒だっただろ」
「仲良く無かったのに…!」
「…俺の名前」
「?」
唐突に、轟くんは私の持っていた包みを指差して首を傾げた。何てかっこいいんだこの人は…!!
「こっ、これは…!!」
「俺のだろ、貰っていいか」
これだけはっきりと「轟くんへ」と書いていたら、どんな鈍感でもすぐに自分宛だと気づくに違いない。でも今は、まだ心の準備が出来ていないのにあなたの物ですと主張するそれを少し恨んだ。
「あっ…どうぞ!! あなたのです!」
「…ありがとな」
…あれ? 少しだけ轟くんが嬉しそうに見えるのは気の所為…?
あんなにチョコを貰って、私のも大差ないはずなのに。
「お前がいつ渡すのか、見てた」
「…え? それって…」
「来年も待ってる」
「え、あ、」
ぽん、と頭を撫でられ、轟くんは行ってしまった。
「………」
残されたのは、赤面したまま状況を飲み込めない私一人。
「え、え、それって…!!」
どうやら、当たって砕けるどころか。
当たってそのまま絡め取られてしまったのでした。
20150213
―――
アトガキ
一度、というのは轟が落し物を届けてもらった時という設定
牡丹に恐怖を与えるためだけに登場させられた爆豪くん
轟もまた牡丹を見ていました
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