「わーしろーい」
牡丹は嬉しそうに、鉄格子の外の景色を眺めている。外は雪のおかげで一面白に染まってしまっていた。息は白くなっているが、寒さに強いのか元気に跳ねている。風邪をひかれると困るが、楽しそうに雪をつつく牡丹を止める気にもなれない。
「ゆきだるまー」
鉄格子の間に積もった雪をかき集め、小さく握り込んでいく牡丹。雪だるまを作っているんだろうが、玉が三つ積まれているのが気になる。
足にするのか、小さな玉を二つ一番下の体に取り付け、木の枝を真ん中の胴体にさす。手の代わりだろう。
「はな…」
その言葉にふと思い立ち、人参を手渡す。すると牡丹はそれを頭の後ろから刺して人参の先を鼻代わりにした。
「できたー!」
目の前にずいと出されたのは、目と口が足されて少し間抜け面をした雪だるま。
牡丹は満面の笑顔で、雪だるまの手を持って少し動かし拙い言葉で言った。
「ぼく、オラ○、ぎゅうーっとだきしめてー!」
「………」
…ぎゅう。
そんな音がしそうな程、牡丹を強く抱きしめた。
「………」
しばらくの間。
内心少し後悔しながら嫌だったか、と聞けば、ううん! と牡丹は照れたように微笑んだ。
「きれねんこ、あったかい」
くすくす笑って、温もりを求めるように首筋に頬を押し付けている。柔らかい感触が首に当たってくすぐったい。
雪だるまをベッドサイドに置き、細く息を吐いて牡丹の肩に額を置く。いつもとは違った距離感が、心地良い。
「きれねんこ?」
牡丹の匂いをこの際覚えておこうと、頭や首筋に鼻を近づける。まあ普段から距離は近いが。
華奢な腰を引き寄せ、更なる密着を図る。ぺた、と胸板にくっついた牡丹は上目遣いでこちらを見つめてくる。
…こいつ、わかっててやってるのか無意識なのか。
「…知らんぞ」
「?」
呟いた言葉の真意がわからず首を傾げる牡丹の、小さな唇に口付けた。
「―――!?!?」
驚きで逃げようとするが、後頭部は手でしっかりおさえてある。
「〜っ!!」
暴れる牡丹をおさえつけ、柔らかな感触を存分に記憶として焼き付けてから、解放した。牡丹は現状を把握したのか真っ赤な顔で、只々俺を見上げている。
「…き、きす…?」
「…知ってるのか」
「ほ、ほんとにすきなひと!! いってた!」
「キスは本当に好きな人とすると言っていた」と言いたいのか。
誰が牡丹に吹き込んだのだろう。
「嫌いか?」
「!」
そう問えば、黙って俯いて抱きついて来た。そして、小さく呟く。
「す、すき…!」
「………」
胸の内をくすぐられるような、掴まれるような。これが愛しいという感覚だろうか、と思いながら、中々顔を上げようとしない牡丹の頭を撫でた。
平気で抱きついたりしてくる癖に、こういった部分で恥ずかしがる牡丹の照れるポイント、というのがよくわからない。
そんな事を考えていると、唐突に牡丹が顔を上げた。
「あ!」
「?」
「めりー…くりすます!!」
「…メリークリスマス」
えへーと笑う牡丹に、もう一度キスを落とした。
20141225
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