「牡丹ちゃん、ごちそうさまー!」
「はーい、また来てくださいね」
「牡丹ちゃん、おいしかったよ!」
「ありがとうございますー」
甘味処さくらは、今日も繁盛していた。店自体は小さなものだが、客の出入りが絶えない。店の奥に構えた座敷から、牡丹ちゃん、牡丹ちゃんと客たちの呼ぶ声が響く。
「はーい、今行きますー」
客たちに返事をする牡丹は、この甘味処さくらをほとんど一人で切り盛りし、尚且つこの甘味処の看板娘であった。
裾に上品な花を散らした深い真紅の着物に身を包み、甘味処の看板商品であるみたらし団子をお盆にのせてあちらこちらへと歩き回っている。少し下がった目尻に綺麗に通った鼻筋、色付いた頬に薄く桃色の唇。美人な看板娘目当てに店を訪れる者も少なくない。
「噂通りの美人だねえ!」
「褒めても何も出ませんよ?」
おっとりと話す牡丹は、盆で口元を隠し目を細める。
「また来るよ!」
「ぜひお願いしますね」
客を見送り、昼も過ぎて客がいなくなったのを見計らって、竹箒を持って店前に出た…時。
「…牡丹…めし…飯をくれぇ…」
地面を這いずるように牡丹に近づく侍が一人。
「あらあら…銀さん、大丈夫ですか?」
「…死ぬ…」
「ご飯なら出来てますよ、…立てますか?」
死相が出ている銀時に向かって比較的焦りもせず、のんびりした返事を返す牡丹。
「肩…かしてくれ…」
「よいしょ…」
「悪ィ…」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
大の男である銀時の左肩をかろうじて持ち上げ、牡丹は肩をかすというよりか半ば銀時に覆い被さられているように見える。
気を抜けば崩れ落ちそうな銀時をやっとの思いで店の座敷に座らせ、牡丹は昼飯というには遅い飯を座敷へ運んだ。
出された物を掻き込み、ようやく人心地ついた銀時はふう、と息を吐く。
「はー死ぬかと思った」
「最近来ないと思ったら、どうかしたんですか? 隣だからすぐに来ればいいのに」
「やーまぁ色々あってさ…」
甘味処さくらは、万事屋の隣にある店だ。
二人は箸を進めながら、銀時は新八という青年が万事屋で働き始めたこと、神楽という夜兎の生き残りが出稼ぎに地球にやって来たこと、その神楽があり得んばかりの量をかっくらって食に困っていることなどを話した。
「随分賑やかになりましたね」
「賑やかどころじゃねーよもうてんてこ舞いだよ…」
「これからは一緒に来てくださいね、作り甲斐がありそうです」
「炊飯器一台じゃ足りねーぞ?」
「すごいですね、面白そう」
牡丹は本当に感心しているだけのようで、銀時はやれやれといった風でそんな牡丹を見つめていた。
「牡丹、こっち来い」
「?」
銀時の手に誘われるまま銀時の前に移動すると、不意に腕を引っ張られて抱き締められた。数日振りなのに、とても懐かしいような錯覚に陥る。
「はー…落ち着く」
「何日か会わなかっただけじゃないですか」
「…お前、寂しくなかったのか」
「寂しかったです。お久しぶりです、銀さん」
応えるように牡丹も銀時に腕を回す。銀時は安心して華奢な肩に顎を乗せた。
「少しくらい顔出してくださいね。私も行けなくてごめんなさい」
「なんか会わないと力出ねーんだよな…」
「そう言われると嬉しいです」
腰まで伸びた綺麗な髪を弄ぶ。銀時は何の意味もなく戯れるこの時間が好きだ。
「店はいーのか?」
「休憩中って出しておきました」
通りでさっきから客が入って来ないわけだ…と銀時は納得した。
「デザートはお団子がいいです? やっぱりパフェですか?」
「牡丹で」
「まだお仕事あるので…」
「んーじゃあパフェだな」
「はい、じゃあ作って来ます」
「……」
「銀さん、動けません」
「……」
「銀さーん」
「無理、やっぱお前にするわ」
「まだお仕事が…」
言うが早いか銀時は片手で牡丹を担ぎ、休憩中というのぼりを本日休業と差し替えた。
「むりむり、もう銀さん我慢できねーもん」
「大丈夫です、銀さん。人間は食欲と睡眠が満たされれば生きられます」
「牡丹が銀時、銀時って啼いてんの想像したらもーだめだわ」
「恥ずかしいです…」
「いつもは銀さん銀さんって大和撫子ーって感じだけどよ、ほんと、脱がせたら最後銀時ーつってエロい顔で誘ってくるもんなぁ」
「誘ってないです、拒んでます」
「ほら」
銀時は甘味処さくらの2階―牡丹の住まいへと入り、畳に牡丹を座らせる。牡丹は観念したように、せめてお風呂だけ入らせてください…と小さな声で懇願した。
「んーじゃ、いただきまーす」
かくして牡丹は銀時に美味しくいただかれた。
20140521
―――
アトガキ
勢いで書いてしまいました。
銀さん好きです。気の抜けたところとか。
牡丹は下ネタとかそういうのすんごい苦手です。
気楽に続くので、気楽に見て頂けると嬉しいです。