06



ハンジさんとモブリットさんと別れた後、私とリヴァイ兵長は本部へと他愛もない会話をしながら戻って行った。

私も久々のお酒に少し酔っ払っていたので、何を話したか曖昧な記憶しかない。

でも確か、私の世界はどういう所なのか色々聞かれた気がする。


そんなこんなでまた朝を迎えたわけだが……


『やっぱり戻っていない……』

今度こそ寝たら現実世界に戻っているであろうと思っていただけに、ふと寂しさを感じた。

すぐ現実世界に戻りたい、という気持ちはほとんどなかったのだけれども。

やはり夢ではなく、トリップしてしまったんだ、と改めて実感させられた。


『いいなぁ…私もこの世界に行けたらなぁ…。リヴァイ兵長に会いたいなぁ…』


自分で願った事なのに、いざ来てみると不安な気持ちが片付かなかった。

初めて巨人と戦った時に出来た傷の痛みも、この目に映るこの世界も、この世界に来た事を信じるのが怖かった。

『(でもこの世界に来た以上、やるっきゃない)』

花子は洗面台で顔を洗い、鏡に映った決意の目をした自分の顔を見つめた。

『(私は、皆を助けたい。皆が幸せに暮らせるように、早く巨人の居ない世界にする……)』


そして花子はいつも通り軽く化粧をし、髪をまとめ、兵団服に着替えた。

『よし!!』

花子は両手で頬をパンッと強く叩き気合いを入れると、リヴァイの執務室へと向かった。




コンコン

『おはようございます、花子です』

花子がリヴァイのいる執務室の扉をノックすると、ガチャッと扉が開きリヴァイが顔を出した。

「まずはエルヴィンの所で顔合わせだ。行くぞ」
『はい』

リヴァイは鍵を閉めると、いつもの事なのか早足で行ってしまったので、花子は離れないように小走りでリヴァイの背中を追った。

『リヴァイ兵長、昨日はご馳走様でした』
「あぁ……洒落た店じゃなくて悪かったな」
『いえ、かしこまったお店より、居酒屋の方が本当に好きなので』

それよりも、ご馳走してもらって文句なんて言えませんよ、と笑って答えるとリヴァイは「そうか」と言ってチラッと目だけ花子を見て、また目線を前に戻した。

そして相変わらずリヴァイは、エルヴィンのいる執務室の扉をノックもせず、悪びれる様子もなくガチャッと開けて入っていく。
花子は申し訳なさそうに『失礼します』と言って入っていった。

部屋に入ると、もうすでに人が集まっていた。

「花子、朝からすまないね。リヴァイから聞いていると思うが、今日から正式に調査兵団に入団となる。改めてよろしく頼むよ」
『はい!こちらこそありがとうございます。よろしくお願いします!』

花子はこういう時は確か、心臓を捧げるポーズをするんだよね?と思い、ぎこちなく右手の拳を左胸に手を当てた。

「今はそんなかしこまらないでくれ。それと、一部君の素性を知らせてあるのが、ここにいるメンバーだ。ここにいるメンバー以外は知らないから安心してくれ。そして花子もボロが出ないよう、気をつけてくれ」
『分かりました』

そしてエルヴィンは、ミケ、ナナバ、ハンジ、モブリット、そしてリヴァイをそれぞれ紹介していった。
モブリットはここ数日共に行動していただけに、驚いた様子だった。花子は心の中で『黙っててすみません』と謝り、困った顔のまま愛想笑いを浮かべた。

『改めてよろしくお願いします。少しでも力になれるよう精進します!』

花子は深々と頭を下げて挨拶をすると、それぞれ「こちらこそよろしく」と笑顔で返してくれた。それを見て花子はホッと胸を撫で下ろした。

すると横から大きな影が花子を覆う。

スンスン

『へ?』
「.….…いい匂いだ」
『え.….…?え.…、えぇ.…』

花子は顔を引きつりながら、ゆっくり後退りすると、後ろにいたハンジに隠れた。

『気持ち悪い.….…』
「っぷーー!!ミケ、気持ち悪い言われてやんのー!あーっはははは!!」
「ミケ、初対面でしかも女性にそれはアウトだよ」
「.….…」

ミケが人の匂いを嗅ぐ癖は知っていた花子だが、いざ不意打ちでされると鳥肌もののようで、ポロッと本音が出てしまったようだ。

そして花子の反応を見たハンジはお腹を抱えて大爆笑し、ナナバはため息を吐きながらミケの背中をポンポンと叩いてなだめながら言うと、ミケは少し傷ついた様子だった。

「花子ごめんね、ミケは人の匂いを嗅ぐのが癖でね」
『いや……あの……知ってたんですけど、実際されると鳥肌が.……』

ナナバが苦笑いしながら代わりに謝ると、花子は頬を引き攣らせながら笑った。

「.….…ナナバよりいい匂いかもしれない」
『ひぃーー!!(気持ち悪い!)』
「ちょっとミケ!!それは本当に気持ち悪い!!」

やっぱりミケさんはちょっと変態かもしれない……!!

花子の顔はみるみる青ざめていった。
さすがの発言にナナバは後ろから蹴りを入れていた。
蹴られていたミケはでもちょっと嬉しそうで、それもちょっと気持ち悪い、と花子の顔はどんどん歪んでいった。

「顔合わせはこれで終わりだろ、俺らは次がある。花子、行くぞ」
『え、あ、はい!』
「ちょっとリヴァイ〜!また独り占めしないでよ〜!」
「え、なになに?何の話?」

リヴァイは出て行こうとしたが、ハンジ、ハンジの発言にニヤニヤするナナバをギッと睨んだ。

「確かに、リヴァイが補佐官付けるって今まで無かったもんな」

ミケまでも、考えるように顎に手を置きながらボソッと言っていた。

『あの、補佐官というのはエルヴィン団長の命令ですし、異世界から来た訳わからない人間を監視の意味も込めて、だと思いますし……』

花子はチラッとエルヴィンの方を見て助けを求めた。

「まぁ、私は提案しただけだ。それを最終的に決めたのはリヴァイだ」

ニヤリと笑うエルヴィン。


えー……

なんかエルヴィン団長も楽しんでる〜……


花子は完全にリヴァイは遊ばれてる、と思い、冷や汗をかきながら、チラッと横目でリヴァイを見ると、腕を組みながら目を伏せ、ため息を吐いていた。

「俺は、花子の実力を見て戦力になると思ったからだ。それに、傍に置いとおきゃ、下手な真似された時にすぐ切り落とせるからな」

そう言うとリヴァイは、ギロッと花子を睨んだ。

花子は本気の目をしているリヴァイを見て、昨日の楽しかった出来事を思い出すと、悲しみが心の痛みのように走り抜けるのを感じた。

『(やっぱり、まだそう簡単には信用されないよね……)』

悲しげに苦笑いをもらす花子を横目に、リヴァイは「行くぞ」と言って部屋を出て行った。
花子は『失礼しました』と言って出てい行こうとした所で、エルヴィンに呼び止められた。

「後者の発言は本心ではないから気にしなくていい。君を殺すなんて事はないから安心しなさい」

あまりにも酷い顔をしていたのか、エルヴィンはフォローしてくれた。その優しさに花子は物悲しげに微笑んだ。

「花子!いつでも相談乗るから、リヴァイに何かされたら言ってね!」

ハンジも優しい声でフォローしてくれ、皆笑顔で手を振ってくれた。
花子は自然と笑顔になり、手を振って部屋を出て行った。

そして急いでリヴァイの姿を追うと、リヴァイと目が合い、花子は慌てて逸らした。

「さっきはその場凌ぎで言った事だ。ああでも言わなきゃクソメガネは調子に乗る。だから気にするな」
『そう……だったんですね……よかった……』

花子はリヴァイの言葉にホッと胸を撫で下ろした。

「よかった?」
『だって、昨日あんなに楽しかったのに、やっぱり信頼されてないんだな、と思ったので』
「悪かったな」
『いえ、やっぱりリヴァイ兵長は優しいって確信しました』

花子は嬉しさに動かされて反射的に微笑むと、リヴァイは一瞬ドキリと動悸が打つ気がした。

「……そのリヴァイ兵長ってやめろ。長ったらしい」
『え、でもさずがに呼び捨ては……』
「誰も呼び捨てにしろなんて言ってねぇ」
『サーセン……んじゃ……リヴァイさん?』
「なんだ」
『兵長?』
「なんだ」
『先輩?』
「……なんだ」
『リヴァイの兄貴?』
「ああ?」
『どれがいいですか?』
「もう好きにしろ」

そんなやり取りをしてるうちに、リヴァイの執務室に着いた。

「もう少ししたら奴らが来るだろう。花子、紅茶は淹れられるか?」
『はい!お任せ下さい!』

花子は部屋の奥にある小さな給湯室でお湯を沸かし始めた。
お湯が沸く間に、ティーポットに茶葉を入れ、ティーカップを用意した。
花子は沸くまでに、リヴァイの呼び方について考えていた。

なんて呼ぼうかな?

本当は呼び捨てにしたい所だけど、歳上に対して呼び捨ては気が引ける。
となると、やっぱり「リヴァイさん」が妥当か?
でも、会社では役職付いてる人に対しては役職名で呼ぶのが一般的だったから、ここはやはり「兵長」と呼ぶ方が無難か?

などと考え混んでいるうちにお湯が沸いたので、丁寧に紅茶を淹れ、リヴァイの所へ運んだ。

『お待たせしました、兵長』
「結局その呼び方にするのか」
『はい、なんかこの呼び方の方がしっくりくるので』
「そうか。好きにしろ」

リヴァイは合わせていた目を紅茶に向け、ゆっくり口にした。

「ほう。初めてにしては悪くない」
『良かったです』

花子も紅茶が好きでよく飲んでいたので、淹れ方には問題なかったようで安心した。
しかも、紅茶好きのリヴァイに初めて淹れたので、尚更ドキドキしていたのだ。

するとノックすると音が聞こえた。
リヴァイが「入れ」と言うと、ゾロゾロと知っている顔ぶれが入ってきた。

「特別作戦班に任命していただき、光栄です!本日からよろしくお願いいたします!」

先頭にいたエルドが挨拶をすると、それに続いてグンタ、オルオ、ペトラが挨拶を始めた。

「いいか、俺らの任務は巨人化するエレンの監視、護衛する事だ。もし、エレンが巨人化して制御できなくなった場合、始末しなきゃならねぇ事も頭に入れておけ」

「「「「『はい』」」」」

「そして、俺の補佐官の花子だ。こいつはここに来て日が浅い。色々教えてやってくれ」
『花子・佐藤です。皆さんの足を引っ張らないように頑張ります。よろしくお願いします』

花子はお辞儀をして挨拶し終えると、ペトラが近付いてくるのに気付いた。そして花子の手を取り、ぎゅっと握って目をキラキラさせていた。

「あの!実は私、花子さんの憧れなんです!!」
『え?あこ、憧れ!?』

花子は突然の事に目をパチパチさせていた。

「はい!!エレンが壁を塞いだ時、空から降ってきましたよね?!そして巨人2体同時に倒したの見ました!!凄いカッコ良かったです!!」
『そんな.……全然凄くないよ.…』

改めて、結構色んな人に見られてたんだな、と苦笑いしながら答えた。

「あーーーーー!!!」
「「「「!?」」」」
『どどどど、どうしたのペトラ!?』

握っている手を見たペトラは突然大声を出した。
男全員何事かと、一気に2人に目を向けた。

「花子さん.…ご結婚されてるんですか!?これ、指輪ですよね!!」
『え!?あー……うん』
「「「え!?」」

男達陣は非常に驚いていた。リヴァイは知っているので、やり取りを横目に静かに紅茶を飲んでいた。

「ちなみにガキもいるぞ」
「「「「えええーーー!!!!」」」」
『え、ちょっと!兵長!別にそこまで言わなくても……』

リヴァイが花子の情報を勝手に漏らすので、花子は動揺した。

「結婚して、しかもお子さんもいる兵士なんて素敵過ぎます!!」

ペトラは更にキラキラした目で花子を見ていた。

「どおりで.….…」
『え、なんですかエルドさん.…』

1人で納得しているエルドに花子は目を細め、ジッと見た。

「どこか母性を感じるなと思ったんだよな」

エルドに続き、皆が確かにと、ウンウン頷いていた。

『そんなにお母さんオーラ出てます?私.…』
「素敵な女性には変わりないからいいじゃないですか!」

ペトラはギュッと抱きついてきた。

「花子さん、思ってたより小さいんですね!可愛い!!」
『おい.……』

一言余計だそ、ペトラさん?


そんなこんなで、特別作戦班、通称リヴァイ班が結成された。
エレンはまたいつ巨人になるか分からない、という事で地下牢にいる。どうやら出発ギリギリまで顔合わせが出来ないようだ。

『(いよいよ……ね。気を引き締めていかなきゃ)』

花子は皆が笑顔で会話している様子を見て手を握り、グッと拳に力を入れた。


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21.06.17


次回こそ、原作に突入させます…!汗




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