05



訓練の後、リヴァイはエルヴィンの元へ向かった。
いつも通りノックもせずにドアを開けると、エルヴィンは困った顔をしてため息を吐いた。

「リヴァイ、ノックぐらいしなさい……。花子の事だろう?」
「ああ」
「どうだ、彼女は」
「思っていた以上だ。あいつは戦力になる」
「ほう、リヴァイが認めるとは相当だな」

エルヴィンは両肘を机の上に立て、両手を口元で組んだ。

「何か気になる事があったのか?」
「……あいつは何を考えているか読めない」

エルヴィンの質問に、ずっと合っていた目をリヴァイは逸らした。
エルヴィンはリヴァイの珍しい反応に、眉を寄せた。

「どういう事だ?」
「別世界から来たのにも関わらず、帰りてぇ素振りもねぇし、立体機動も楽しそうに飛んでいやがった」
「ほう……。むしろ望んでこの世界に来た……とかな」
「そうだとしたら、こんなクソみてぇな世界に来るなんざただの馬鹿だ」
「彼女がこの世界に来た理由があるのかもしれないな。引き続き、よろしく頼むぞ、リヴァイ」
「ああ、分かっている」

部屋を出て行こうとするリヴァイに、エルヴィンは呼び止めた。
リヴァイは「何だ」と不機嫌そうな顔で振り向いた。

「例の特別作戦班だが、正式に決まった。それと同時に花子の入団もだ。明日、一部に紹介するつもりだ」
「そうか。班には花子も加える」
「勿論構わない。君の補佐官だ。基本、リヴァイと共に行動すればいい。それと、入団の件は花子にも伝えておいてくれ」
「了解だ」

そしてリヴァイは部屋を出て行き、花子の部屋へと向かった。




コンコン

「花子、俺だ」

ノックをしても返事がない。
もう一度ノックをするが、また返事がない。
不思議に思ったリヴァイはガチャっとドアを開けた。

そこには床に膝を付き、上半身はベットにうつ伏せ状態で寝ている花子がいた。

「なんて格好で寝てやがる……」

リヴァイは花子に近付き、肩を揺らした。

「オイ、花子起きろ」
『う〜〜……』

今度は反応はあったが、まだ目を瞑ったままだった。

「花子起きろ!!」
『ふぁっ!?』

今度は頭をガシッと掴まれ、左右に思い切り揺らされ、花子はやっと目を覚まし、ガバッと起き上がった。

『………リヴァイ…へいちょ…?』

起きたばかりなので、頭がまだぼーっとしていた。目の前の人物は、目が霞んでボヤっとしか見えなかったが、声でリヴァイだと分かった。

「ずっと寝てたのか」
『……はい、夕飯前まで……仮眠しようと思ってたんですけど……普通に爆睡してました』

花子は眠い目を擦りながら答えた。

「飯食べ損ねるぞ」
『そうですね、助かりました。わざわざ起こしに来て下さったんですか?』
「いや、エルヴィンから伝言だ」
『団長から?』

予想外の名前に花子は一気に目が覚め、パッと顔を上げた。

「花子の正式な入団が決まった。明日、エルヴィンの部屋で一部のメンバーと顔合わせだ。それと、例の特別作戦班が正式に決まった。こっちも顔合わせをする」
『分かりました』
「……」
『……?』

出て行こうとしないリヴァイに花子は頭に「?」を浮かべていた。

「……何ボサッとしている、行くぞ」
『え……?どこに行くんですか?』
「飯だ。さっさと立て」
『私、まだ入団していないので食堂には……』
「なら外に食いに行くぞ」
『へ!?』

予想外のお誘いに花子はキョトンとしていた。

『で、でも!私まだお金持ってないので……』
「女に出させる趣味はねぇよ。着替えたら廊下で待ってろ」
『わかり……ました』

そういうとリヴァイは部屋を出て行った。


マジか……


あのリヴァイ兵長と……


ご飯!!!!!



花子は静かに大きくガッツポーズをしていた。


そして花子は急いで準備をした。
大きめのシャツに、黒のパンツ、低めのパンプスと至ってシンプルな服装にした。

この世界でもユ○クロに売ってるようなシンプルな服が売っていて安心した。

子どもも産まれるとオシャレなんて全然出来ないし、スカートなんてもう何年穿いてないかな?

だから自然と動きやすく、シンプルな格好になっていくのだ。


『(息子は……大丈夫かな……)』

一緒に寝ていた息子はまだ小さいので、母親が居ないとなると大惨事になる。
夫も子育てなんて非協力的だったから、今頃てんやわんやなんじゃないか、と突然心配になってきた。

『(私だけ、こんな自由に生きていていいのかな……)』

ぼーっと現実世界の事を考えていたらドアの外からリヴァイの声が聞こえた。

「オイ、まだか」
『あ、今行きます!!』

花子が急いでドアを開けると、不機嫌そうなリヴァイが立っていた。
リヴァイもシャツにスラックスと、シンプルな格好だった。

「いつまで待たせる気だ」
『頭がまだぼーっとしてて、すみません』

花子はヘラっと笑って謝ると、リヴァイは鼻を鳴らして先に行ってしまうのを見て、花子は慌てて背中を追った。




歩いて10分程経った頃、リヴァイは一軒の酒場へと入って行った。

まだ18時近くだか、既にお店は賑わっていた。

リヴァイは手慣れた様子で正面のカウンターに座ると、突っ立っている花子に目で座れと指示し、花子は隣に腰を掛けた。
そしてリヴァイはメニュー表を取り、目を通していく。

「おや?リヴァイ兵士長、女性連れとは珍しいですな」
「ただの部下だ」
「初めて見る顔ですな」
「部下になったのはつい最近だからな」
「にしても、えらいべっぴんさんだな。こりゃ兵団の士気も上がっていいですな!」
「うるせぇな、黙って仕事に集中しろ」

リヴァイは常連客なのか、店主らしき人と親しげに話していた。それを横目に花子は苦笑いしながら聞いていた。

「お前は何が食いたい」
『何があるんですか?』

花子は横から覗き込むよう、リヴァイの持っていたメニュー表を見た。

「お前、ここの文字読めるのか?」
『あ、はい、普通に読めます。えーっと……唐揚げとポテトとウィンナーと……』

花子は表に書いてあるメニューを上から読んでいった。

花子は昔、杏奈と巨人の世界の文字で手紙を書く、という遊びをした事があり、その時に勉強して覚えたのだ。

「文字は書けるのか?」
『はい、勿論です』
「花子よ……お前、立体起動も出来て文字も読み書き出来るとは、化け物だな」
『え、なんですか化け物って……』

花子は物珍しく見るリヴァイをジロリと睨んだ。

『私、もしかしたらここに来る為に生まれて来たのかもしれませんね!』
「なんだそりゃ」
『リヴァイ兵長も、こんな優秀な補佐官が側に居るって鼻が高くないですか?』
「馬鹿言ってねぇで、さっさと決めろ」

花子は冗談っぽく笑って言うと、リヴァイも満更でもない顔をしていた。

そして何品か頼み、先にお酒が運ばれてきた。

『改めて、これからよろしくお願いします!』
「ああ、期待している」

乾杯をしてお酒を口に運び、グビグビッと喉に流し込んだ。

『ぷは〜!美味しい〜!!』
「そんなに言うほどか?」
『なんてったって、2年ぶりですよ?は〜幸せ〜〜!』
「2年ぶり?」
『出産してから飲んでなかったので久しぶりのお酒は身に染みます!』
「……は?」
『あ、私結婚していて子どもいます。あ、この唐揚げ美味しい〜!』

まさかの発言に固まっているリヴァイをよそに、花子は幸せそうな顔をして唐揚げを頬張っていた。

「なら、尚更帰りたいんじゃねぇのか」
『まぁ……確かに子どもの事は心配ですけど……』

リヴァイの質問に唐揚げからリヴァイに目を向けると、花子は困ったように笑い、目を伏せた。

「なんだ」
『私は逃げたかったんです……現実から』

自分でも分からなかった。
確かに自分の世界も、どうなっているのか気にはなるけど、今すぐ帰りたいか、と聞かれると即答は出来ない…。

私は、あの生活から抜け出したかった。

あの愛のカケラもない生活から……


「だから楽しそうに飛んでいやがったのか」
『え、私そんな感じで飛んでました!?』
「あれ?リヴァイ?」
『?』
「………」

後ろから声をかけられ、リヴァイと花子は同時に振り向くと、リヴァイは露骨に嫌そうな顔をしていた。

『ハンジさんにモブリットさん!』
「こんばんは、リヴァイ兵長、花子さん」
「早速飲みに誘うなんて、やるねリヴァイ!」
「うるせぇクソメガネ。酒が不味くなる。とっとと消えろ」
「相変わらず酷い言いようだな〜」

どうやら、ハンジとモブリットも2人で飲みに来たようだった。
そしてリヴァイの意見は無視して4人で飲む事になった。

「それにしても、女性とご飯で居酒屋に連れてくるんなんて、リヴァイどうかしてるよ!だからモテないんじゃない?」
「……その眼鏡ぶち壊してやろうか?」
「花子ももっとオシャレなお店が良かったよね?」
『いえ、私居酒屋好きなので平気ですよ』
「なんて出来た嫁なんだー!!」

ハンジは花子に抱きついた。
酔っ払っているのか、テンションがいつもより高かった。

『アハハ……』
「………」
「分隊長……飲み過ぎです」




合流してからだいぶ時間が経っていて、外はもう真っ暗になっていた。
明日も仕事なので、今日はここでお開きとなった。

「ねぇ〜リヴァイ!あそこまで競争しようよ!!」
「飲んだ後に走る馬鹿がいるか。吐くぞ」

ハンジがお店から出るや否、突然走ろうと言い出し、リヴァイの腕を引っ張って行った。
リヴァイは嫌そうな顔をしながらも引っ張られて行った。
そして、花子とモブリットはその2人を少し遠くから眺めながら歩いた。

『相変わらず仲がいいですね、あの2人』
「アハハ……。それにしても、あのリヴァイ兵長がハンジ分隊長以外の女性を誘うなんて驚きました」
『え?そうなんですか?』
「はい。俺が覚えている限りでは、今まで見たことはありません」
『へぇ……。なんか試されてるのかな、私』

アハハ、と苦笑いしながら花子は頬を掻いた。

「リヴァイ兵長、今まで特定の人を側に置くような事はしてこなかったので、親睦を深めようとしたんじゃないんですかね」
『と言っても補佐官って、エルヴィン団長の命令ですけどね……』
「団長もリヴァイ兵長の性格は把握してるはずなので、命令の指示は珍しいと思いますよ」
『期待を裏切らないように頑張らないと……ですね』
「花子さんなら大丈夫ですよ。何かあったら相談にも乗りますから」

花子は見えないプレッシャーを感じ、沈んだ顔をしていると、モブリットからのフォローに心が温かくなったのを感じた。

『ありがとうございます、モブリットさん』

微笑んで答えると、モブリットの頬が少し赤くなっていた。
すると前を歩いていたハンジとリヴァイが2人の元へ寄ってきた。
肩を組まれていたリヴァイは腕組みをして嫌そうな顔をしていた。

「ねぇー!これからもう一軒行かなーい?」
『え、もう一軒行くんですか?元気ですね、ハンジさん……』
「分隊長……明日も仕事なんですから今日はこの辺で」
「なーに言ってんの!花子の歓迎会なんだからもっと楽しまなきゃ!!」

いつから歓迎会になったんだ……とハンジの異様なテンションに3人は呆れていた。

『あの、ハンジさん、お気持ちは嬉しいですが、明日私初任なので流石に今日は……』
「ハンジ、お前は落ち着け。もう今日はその辺にしとかねぇと明日に響く」

ずっと黙っていたリヴァイが口を開いた。
さすがに怒っているようだった。

「もっと花子と一緒に飲みたいよ〜!!」

そう言うと、ハンジが花子に抱きつき「ねぇ〜花子〜」と頬を擦り寄せてきた。

『(め……めんどくせぇ…)』

花子はされるがまま、白けた目で明後日の方向を見ていた。
その様子を見ていたリヴァイは、花子からハンジをベリッと剥がし、自分の方へ引き寄せた。

「ハンジ、いい加減にしろ。飲みたきゃ1人で飲め。俺らは帰る」

そう言うとリヴァイは花子を連れて本部へと帰って行った。

「……何あれ、独占欲半端ないじゃん」
「あんな兵長、初めてみました」

ハンジとモブリットは、しばらく2人の背中を見つめていた。


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21.05.29

なんか話広げすぎて長くなってしまいました……
全然進まない(笑)


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