三日三晩気まぐれな海に翻弄されて、ようやく島に到着したのは真夜中だった。
いつもは我先にと島に飛び出すルフィも、今回ばかりは休息を優先したようで甲板に倒れこむようにして眠っている。
それに毛布をかけると、ナミは船の中に散りじりになった仲間の元へ向かった。

「サンジ君、食料はどう?」
「あぁ、そろそろ補給しねぇと…。野菜とか生鮮食品が欲しいかな。調味料も買い足してぇんだけど…」
「ん、分かったわ」

食料庫で整理をするサンジに声をかけ状況を聞くと買い出しに必要なお金を概算で書き留めていく。
その後、フランキーに船の木材、チョッパーに医薬品、ロビンとウソップに日用品の不足について聞いて、ダイニングでそれを元に皆に渡す小遣いも計算していく。
それを終えた頃にはもう夜は明けていて、仮眠を終えて朝食作りに起きてきたサンジと入れ替わりになるように女部屋で仮眠を取った。

「メシー!」

1時間も経たないうちにルフィの声が聞こえ目を覚ます。
寝不足と疲れで頭は冴えないが、買い出しやら島での情報収集やらクルーに周知しなくてはならないことはたくさんある。
伸びをして欠伸を噛み殺しながら立ち上がると身支度を整えダイニングに向かった。


「…じゃ、皆買い出し頼むわよ。あと、これがお小遣いね。無駄遣いはしないように!」

食料品はサンジ、医薬品はチョッパーとロビン、船の材木はフランキー、日用品はウソップとブルックにそれぞれ託し、それとは別に一人ひとりに小遣いを渡していく。
ルフィに買い出しは無理だ。
ゾロは見張り。
この振り分けは大体同じで、誰も異を唱える者はいない。
一仕事終えると急激に眠気が襲ってきて、堪え切れず大きな欠伸をしてしまった。
部屋で休むわ、そう一声かけてまだ食事を続けるクルーの輪の中から抜け出す。
ナミが海の上では一番気を張っていて、ロクに休めていないことは皆分かっていたから、誰も止める者はいなかった。
…が、

「おいナミ、次の島では出かけるんじゃなかったのか?」

ダイニングを出たナミを追いかけてきたのはゾロで、憮然とした表情で声をかけてくる。

「…そんなこと言ったっけ…ていうか、ごめん、もう無理、ちょっと寝かせて…」

眠気で意識は朦朧としていてゾロの言葉の意味を考えることも出来ない。
掴まれた腕をやんわりと外すとナミはふらふらと女部屋へと向かっていき、そこには煮え切らない表情で芝生を蹴るゾロだけが残されたのだった。



「ん…」

ようやく深い眠りから目が覚めたのは日がすっかり沈んでからだった。
久しぶりの上陸だから外泊も許可してある。
小遣いもいつもより多めに渡した。
その為か部屋の外からいつものような喧騒はなく、波音が聞こえるだけ。
大きく伸びをして起き上がると渇いた喉を潤す為にダイニングに向かった。
冷蔵庫から水を取り出して飲みながら、ふと、キッチンに貼られた日めくりカレンダーに目を留める。

「11月…11日…」

あぁ、11月11日ね。ゾロの、誕生日だ。
頭の中で反芻して、それを認識したナミは一気に血の気が引いていくのを体感した。
そういえば眠る間際にゾロに呼び止められた。
そうだ、誕生日プレゼントを買ってあげるから一緒に出かけよう、宿もとる?なんて話を嵐に巻き込まれる前にしたのは自分自身だと頭を抱える。
疲れにかまけてすっかり忘れていた。
ゾロの憮然とした表情も理解できる。
約束を違えるとゾロは拗ねる。
前に見張り台に行くと言ったのをすっかり忘れて翌日になっていた時は暫く口を聞いてくれなくて、そのくせもう面倒くさいと放っておくとさらに拗ねて手がつけられなくなった。
そんな姿を見せてくるのはナミだけで、ちょっとした優越感と少しの面倒くささを感じながらいつも相手をしていたのだった。
今回も謝り倒すしかないかとため息を吐き、気合いでも入れるかのように頬を叩くとナミは立ち上がった。




女部屋の戸が開いてナミがダイニングに向かったのを、ゾロは見張り台兼トレーニングルームから見下ろしていた。
今日はゾロの誕生日である。
恋人同士という関係にある女から、デートだ、それに泊まりだと言われていたのだから、健全な男としては期待するなという方が無理だろう。
三日三晩嵐に翻弄されて、航海士という立場上海の上でクルー全員の命を一身に背負う彼女に負担がかかってしまうのは毎度のことで、その重圧は重々承知しているつもりだ。
朝食時にあれやこれやとクルーの世話を焼きながらも今にも眠ってしまいそうに頭を揺らしている姿を見ていれば、今すぐ出かけようと言う気にはもちろんならないし、期待していたからといってその状態の女を抱こうとも思わない。
ただ、一言もなく、部屋へ引き取ろうとする姿に疑問を感じたのだった。
こいつ、もしかして忘れているんじゃなかろうか。
声をかけると案の定そうだったようで、疲れているんだから仕方がないと思う自分と、自分の誕生日の時はしつこいぐらい言ってきたくせになんだと憤慨する自分とで、ゾロは複雑な気分で時が過ぎるのをひたすら待っていたのだった。
暫くしてダイニングから出てきたナミは女部屋に寄り、その後図書館の方へ向かった。
シャワーでも浴びるのだろう。
ナミがトレーニングルームに上がってくる気配もなく、上から観察していることもバカらしくなったゾロは、倒れこむとふて寝を決め込んだ。
もう知らねぇ。明日にでもなって、誕生日をすっかり忘れていたことを慌てたらいいんだ。
我ながら子どもっぽいことをしていると思いながらも、ナミの前ではそんな自分をさらけ出してしまう。
今日ばかりは子どもに戻ったっていいだろうと、そのまま目を閉じた。



「…ろ。ゾロ…起きて…」

夢うつつにそんな声が聞こえてきて、身体を揺さぶられる。
寝ぼけ眼で薄っすらと目を開けると、間近にナミの顔があった。
愛しい女の姿を見て手を伸ばして引き寄せようとしたが、先ほどまで怒っていたのを思い出して目を瞑るとナミがいるのとは反対方向に寝返りを打った。

「ゾロってば!」

いくら揺さぶられても、反応してやらない。
ここまで来ればもう意地だ。
ナミが思い出して素直に謝ってくるなら振り向いてやる。
そう思っていたのに、

「ゾロ…どうしてこっち向いてくれないの…?」

そんなナミの一言と、鼻を啜る音が聞こえて、泣いているのかと慌てて思わず振り向いた。
たが振り向いた先にいたのはにんまりと笑うナミの姿。

「やっとこっち見たわね」
「てめっ…!騙したのか…」
「拗ねたゾロ君にはこれが一番効くでしょ?」

ナミはゾロの鼻をつつきクスクスと笑う。

「あのね、ゾロ。誕生日、おめでとう。それと…その…忘れててごめんね…?」

打って変わって上目遣いに申し訳なさそうに言われれば文句も言えない。
次いで頬に口づけられれば尚更何も言えない。
だがそれでも怒っているんだとアピールでもするように憮然とした表情は崩さず目をそらした。

「あのね、プレゼント、用意できなかったの。だから…えっと…プレゼントは私…っていうの、ど、どう?」

頬を染めたナミを頭と髪にリボンが結ばれていた。
なかなかに恥ずかしがり屋のナミがこんなことをしてくるのは本当に珍しい。
しげしげとその姿を眺めていると急に腹にパンチが飛んできた。

「いらないならいらないって言いなさいよ!」
「…いや、いる」

その手を受け止めてきつく引き寄せ抱きしめると髪に顔をうずめる。

「返品不可だからね!」
「…おう」

まずはぎゅっと抱きしめてこの香りと柔らかな感触を堪能しよう。
柔らかな胸に頬ずりすると頭を撫でられる。

「…甘えん坊」
「あぁ、甘えん坊なんだ。だから、甘やかしてくれよ」

今日はおれの誕生日。
少しくらいガラじゃないことをしたっていいだろう?
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