風呂から出て、ルフィとコックに捕まって女部屋に来るのが遅くなった。
ドアを開け部屋の主を探すと、ソファに身を預けるオレンジの髪が見える。

「ナミ」

そう声をかけると、どうやらうとうとと船を漕いでいたらしいナミが目を擦りながらこちらに視線を向けてきた。
おれを待っている間に寝てしまったらしい。
未だぼんやりとした目のまま、欠伸をひとつして、ナミは口を開いた。

「遅かったのね」
「あぁ、ルフィとコックに捕まってた」
「…そう」

いつもなら文句の一つも出てくるのに、どこか元気のないナミはおれの言葉にそれだけ、小さく消え入りそうな声で返しただけだった。
そのままソファから立ち上がりベッドに向かうとおれを振り向く。

「もう寝るでしょ?」

おれが頷いたのを確認したナミはスリッパを脱いでベッドに入った。
おれも、ナミに続いてベッドに向かう。
先にベッドに入ったナミの隣に潜り込み抱き寄せ首筋に顔を埋めると、抗うように小さく首を振られ、小さな声で呟かれた。

「ごめん、今日は気分じゃないの。疲れちゃって」
「…わかった」

物分かりのいいフリをして、ナミから離れる。
最近ナミを抱こうとすると、拒否されることが多い。
手を繋いだり、キスしたりは変わらず。
気持ちが離れている訳ではないと安心しつつも、正直隣に女が、しかも好いた女がいるのに何もせずに寝るというのはなかなかに辛いもんがある。
腕を伸ばしてやると自然にすり寄ってきて、おれの腕を枕にナミはようやく微睡んだ表情を見せた。
無理やり事を為してナミとの関係を壊したくねェし、最近元気のないこいつにさらなる負担を強いりたくはない。
だが、気になることがあるのも事実だ。

「なぁナミ」
「ん?」

頬と頬がつきそうな程、近い距離で呼びかける。
おれを見て不思議そうな表情を浮かべるナミ。
そうだ。こいつが何かに落ち込んでいるのは分かってた。
何かあるなら言ってくれるだろうとタカをくくっていたが、よくよく考えてみれば、こいつが言う訳がない。
皆に心配はかけまいと、一人で抱え込んで、悩んで、それでもそんな素振りを見せまいと笑うのが、ナミだ。
ルフィやコックや、あいつらに言われるまでもねェ。
本当は、おれがもっと早く、聞いてやるべきだったんじゃないか。
沈黙の後、ようやくおれは、ずっと気になっていたことを口にした。

「最近、ヤリたくねェって言うのと、元気ねェの、関係あんのか?なぁ、何に悩んでる?男連中に近づかねェのは、なんでだ?」

ナミが一瞬、息を呑むのがわかった。
目を泳がせ、だがすぐに何でもないかのように苦笑を浮かべる。

「…何言ってんのよ。私、元気よ?でも最近天候も安定しないし、気を張ってるから、少し疲れちゃって。サンジ君たちにだって、ただ用がないから。…それだけ」
「…そうか」

すぐに取り繕うように言われ、頭のどこかにあった疑問が、大きく膨らんだ。
ナミは、コックの想いに気づいている?
コックにもルフィにも、ナミは知らないだろうと言った。
だが、どこかでもしかして、と思うところがあったのも事実だ。
その疑問が、わざわざナミがコックの名前を出してきたことで確信に変わった。
ナミは恐らくサンジの想いを知っている。
でも、隠すおれたちに合わせて、ずっと気づいていないフリをしていた?
男連中を呼ばなくなったのは、コックから離れる為の大義名分。
身体の関係を拒否するようになったのは、コックに対する後ろめたさ。
恐らくそうだろうと思っても、このままいくら質問を連ねたところでナミは本当のことを言わないだろう。
ならば。
天井を見つめ、おれは口を開いた。

「…ここからは、おれの独り言だからな」
「…?」

ナミが身じろぎをして、おれの方に顔を向けたのが分かる。
ただ、それを見ることもせずじっと天井を見つめたまま、言葉を連ねた。

「おれは、お前が好きだし、手離したくねぇんだ。お前がおれか、他のクルーが原因か分からねェけど、この関係に悩んでたとしても、多分もう、離してやれない。ごめんな」

ナミは、何も言わない。
波の音だけが静かに聞こえてくる船内で、小さくひと息つき、また口を開いた。

「だけどな、一緒に悩んでやることはできる。…頼りにならねェと思うかもしれねェけど。なぁナミ、話してくれねェか?大丈夫だ。おれたちは付き合ってるだなんだ言う前に、仲間だろ?」

天井から目を離して、隣のナミを見る。
思った通り、目にいっぱいの涙を溜めて、じっとおれを見ていた。
その頬を撫でてやり、額をくっつけて、おれは言う。

「おれたちのことも、クルーの関係も、壊れたりしない、おれがさせない。だから、言えよ、言いたいこと。楽しいことも、不安なことも、おれにも分けてくれ。全部を2人で分け合いたい相手だって、そう思っておれはお前を選んだし、お前もおれを選んでくれたんだろ?」

とうとうぽろぽろと涙を零したナミの額に口づけ、もう大丈夫だと、笑いかけた。
泣きながら、ナミは何度も頷いて、おれの胸に縋り付いてくる。
静かに涙を流すナミを抱きしめて、背中を撫でてやった。
少しでもその不安が、なくなるように。
もう一人じゃない、一人で悩まなくていいと、震える身体をきつく抱きしめた。










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