「…あ」

久しぶりの上陸。
海軍も、海賊もいない栄えた街だったからのんびりショッピングを楽しんでいた。
服や雑貨や、欲しいものはたくさんあったけど、財政難の我が船ではムダ使いも出来ず必要なものだけを買い込み、もちろん連れのゾロに全部もたせていた。
日も暮れてきてそろそろ帰ろうかなんて会話をしていた時、それが目に飛び込んできた。
ショーケースの中にお行儀よく座る茶色いふわふわのテディベア。
思わずお店の前で足を止める。

「どうした?」

「う…ううん。なんでもない!帰ろ!お腹すいてきちゃった!」

立ち止まった私に怪訝な表情を浮かべたゾロに気づかれないようすぐに歩き出す。
あのテディベア、小さい頃誕生日にベルメールさんから貰ったものにすごく似てた。
ちょっと欲しいなんて思ったけど、お隣におかれてた値札には1万ベリーの表記。
ぬいぐるみに1万はね…。
みんなに節約を徹底させてる中、買う訳にはいかない。
船長の暴食のせいでお金のないうちの船では1ベリーだってムダに出来ない。
そもそも、ぬいぐるみが欲しい!なんてキャラじゃないし、ちょっと恥ずかしい。
でも本当に似てたな。
小さい頃、村の女の子たちの間でテディベアが流行った。
テディベアってそこそこ高くって、私も欲しいと駄々をこねたけど貧乏のウチでは到底買えなくて。
諦めかけてたのにどこからかベルメールさんはテディベアを買ってきてくれた。
他の子が持ってるようなブランドものじゃなかったけど、貰った時は嬉しくて嬉しくてどこに行くにも一緒だったっけ。

「…い、おい!ナミ?」

「え?な、なに?」

考え事をしていたらゾロから声をかけられていることに気づかなかった。

「…だから、さっきの、くまのぬいぐるみ、どうかしたのかって」

全く上の空だったらしい私に呆れながらゾロに言われた。
あ、気づかれてたんだ。
ゾロは普段鈍チンのくせに、変なとこで勘が鋭かったりする。

「小さい頃、ベルメールさんに貰ったのに似てたから、気になっただけ」

「へぇ。大事なもんならココヤシから持ってこなかったのか?」

「…泥棒始めた時にね、売っちゃったの。海に出るにも食料とか買うのでお金が必要だし。大したものはなかったけど、自分の持ち物でお金になるものはほとんど換金しちゃったのよ。だからもう、ないの」

自分で言いながら、段々悲しくなってくる。
大事だったのに、大切だったのに、なんで売っちゃったんだろう。
今さらだけど後悔の念が押し寄せてきて、大きくため息を吐いてしまった。
ちらりとゾロを見ると何やら考え込むみたいに難しい顔をしている。
あ、なんか暗い雰囲気になってる?

「….まぁ、もう私も大人だし?ぬいぐるみを欲しいなんて言わないわよ」

わざとらしかったかな、なんて思いながら取り繕うとそのうちサニー号が見えてきて、チョッパーがおーい!ナミー!ゾロー!って言いながら手を振ってきたからそこでこの話は終わりになった。



ゾロが帰ってこない。
私と買い物から帰ってきた後、すぐまた出かけたらしい。
夕飯はみんなで、とサニーに集まる時間を決めていたのにこれだ。
ゾロのせいで夕飯をお預けにされているルフィはグラスの縁を噛みながらガタガタと椅子を揺らし耐えられない様子。

「まぁたあのマリモ野郎は迷子かよ…」

サンジ君も時間に合わせて夕飯を作ってくれていた訳だから良い顔はしない。
もういいわよ、先に食べましょ?と声をかけようとしたところで突然ドアが開いた。
そこに立っていたのはやはりゾロで、なぜかその身体は葉っぱやら土汚れやらで汚くなっていた。
ゾロは何も言わず無言でずんずんと私のところまで歩いてきたかと思うと、茶色い物体を差し出してきた。

「やる」

ぽいっと投げられて思わず受け止めるとふわふわの感触。
あの、ショーケースの中にいた、テディベアだった。

「え…あ…な…なんで…」

「欲しかったんだろ?黙って受けとっとけ」

「そうじゃなくて!だってお金とか!あんた持ってないくせになんで?!」

「…どうにかした」

「それ…あんたが今葉っぱとか土塗れになってるのと、なんか関係ある?」

問いかけには答えずそっぽを向いたゾロはどかっと椅子に腰掛けるとだんまりを決め込んだ。
つまりゾロは、何かでお金を稼いでこの子を買ってきてくれたらしい。
ゾロの耳が薄っすら赤くなっている。
ぎゅっとテディベアを抱きしめた。

「ゾロ、ありがとう…」

「…おう」

相変わらずゾロはこっちを向いてくれなかったけど、益々耳は赤くなってたし、小さい声だけど返事を返してくれたから、私の感謝の気持ちは伝わったみたいだった。
訳も分からずぽかんとしていたみんなが騒ぎ出す。

「よくわかんねぇけど!よかったなナミ!」
「なんだなんだー?マリモくんはクマさん抱えて街中をウロウロしてた訳かー?!ぶふっ」
「可愛いテディベアね。名前は暗黒丸でどうかしら?」
「早く!!メーシー!!」



おまけ


夜のトレーニングルームでナミと酒を飲む。
ナミはさっきやったクマをここにも持ってきて膝に乗せている。

「あのね!この子に名前つけてあげようと思って!」
「へぇ、いいんじゃねぇか」
「ベルメールさんに貰った子は茶色いくまだったから茶色って名前だったのよねー」
「………」

そりゃねぇだろ、と思ったが口には出さない。

「またそうしようと思ったらみんなに止められちゃった」
「だろうな…」
「それでね、この子はゾロに貰ったからー、名前はロロ君に決まりました!」

ロロ君…?!

「やぁ!ぼくロロだよ!ロロノア・ゾロ君!よろしくね!」

裏声でそう言ってくまの手を動かすナミの可愛さは…言葉に出来るもんじゃねぇ…。

「ゾロ…?えっ…なに?!どうしたのちょっと!どこ触ってんのよバカ!」

そのまま押し倒したのはおれのせいではない。
ロロ、は暫くそこで休んでろ。
いまからこいつはロロノア・ゾロのもんだからな。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -