「…」
「サンジー!メシー!」
「待てっつってんだろルフィ!先に顔洗ってきやがれ!あ、ナミさんおはよー!ちょっと待っててね今朝メシできるから!」

「…」
「おいコック!酒!」
「真昼間から飲ませる酒はねェよクソマリモ!ナミさん飲み物?すぐ用意するからね〜」

「…」
「なぁサンジー、洗剤ってどこだっけ?
「倉庫だろ。酒樽の左。詰め替え用だからこぼすなよー。ナミさんさんみかん畑の世話?ちょっと待ってね!」

「…」
「サンジー、この間読んでもらった絵本どこにあるか分かるか?」
「男部屋の、確か…ロッカーの上にあったぞ。ナミさんごめんね〜。女部屋の掃除、すぐ手伝いに行くから!」

「…」
「サンジ、おれの海パン知らねェか?赤いやつ」
「私のパンツもないんですよサンジさん。どこか知りませんか〜?ヨホホホホホ」
「知るかっ!…こないだ洗ったシーツ整理してねェだろ。そん中にあるんじゃねェの?ナミさんっ!デッキチェアすぐに出しに行くから待っててね〜!」



こんな風に、私の気になる人は忙しくて、だから、私から話しかけることはほとんど無くなった。



「あらナミ、ずいぶんご機嫌ナナメね。何かあった?」

甲板に出して貰ったデッキチェアに身を預け、しかめ面で彼が用意してくれたオレンジジュースを飲んでいたら、ロビンにそう声をかけられた。
ロビンはそのまま私の向かいに腰かける。
何かあった?なんて、何でもお見通しのお姉さまは、きっと私の不機嫌の原因も分かっているはずなのに済ました笑顔でそんなことを言うのだ。

「サンジ君ね」
「えぇ」
「忙しいのよ」
「そうね。みんなのお世話して、大変そうだわ」
「そうよね!なのにあいつらったらサンジ君に頼りきりで!サンジ君もいつもいつもあいつらの世話ばっかりだし!」
「ナミに構ってくれる時間が減るものね」
「そうよそ…うじゃないわよ!」

また危うくロビンの口車に乗ってしまうところだった。
慌てて否定するも、にっこり笑ったお姉さまは私の否定の言葉なんて聞こえてないみたいに、優雅に紅茶を一口啜り言う。

「でもサンジは、どんなに忙しくてもナミのことをずっと気にかけてるでしょう?」
「う…それは、そうだけど」

そう、そうなのだ。
彼は、どんなに仕事に追われていても、私が一声かけたらすぐ駆けつけてくれるし、いや、一声かけなくても私の元にやって来ては世話を焼く。
始めは、女好きだから、私が唯一の女のクルーだから、そう思っていたのに。
ビビが乗船し始めた頃から疑問が芽生え始め、ロビンが乗船して仲間も増え、2年経ったいま、もしかして、という思いが強くなった。
彼は、ビビや、ロビンのことはそこまで構わなかったし、今もそうだ。
決してないがしろにしている訳ではない。
声をかけられたら喜んで!なんて言ってお茶を入れたりするし、気温が低くなってきたら寒くねェ?なんて気にかけたりもする。
けれど、呼んでもないのに度々現れ、用事はないかと聞いてきたり、デートだなんだと言って買い出しには必ずついて来ようとしたり。
私には、ビビやロビンでは考えられない程の世話を焼こうとする。
もしかして特別扱いをされている?そう思って、彼が声をかけてくれたり、駆けつけてくれるのが嬉しかったのに、最近はあいつらに邪魔されてばかり。
それに不満を持ってしまうのを抑えられない自分がいた。

「…サンジ君、ただでさえ忙しいのに。あいつらの世話焼いてばっかりで。」
「そうね。ふふ、お母さんみたいよね」
「それよ、それ。そんなにさぁ、みんなのお母さんやらなくてもいいんじゃない?ちょっとくらい突き放せばいいのに。そもそもあんなにお世話してあげてちゃ、あいつらの為にもならないと思うのよ!」
「ふふ」

ロビンは口元に手をあててクスクス笑ってる。
私何かおかしいこと言った?とじとりと睨んでも素知らぬ顔で。

「なによ?」
「やっぱり私には、もっと私だけを構って、って言っているように聞こえるのだけれど」
「だから違うってば!」

思わず拳でテーブルを叩いてしまったら、ちょうどそこにサンジ君の足音。
タイミングが良いのか悪いのか。
ティーポットと替えのオレンジジュースをトレイに載せた彼が能天気に現れる。

「ナミさん!ロビンちゃん!飲み物のおかわりお持ちしたよ〜」
「あらサンジ。いまちょうどあなたの話をしてたのよ」
「ちょっ…ロビン!」

どうしてこのお姉さまは黙っててくれないのかしら。
慌てて声をかぶせようとするも、彼は既にそれを聞いてしまっていた。

「え!おれの話?もしかしてもしかして、サンジ君が好き…とか?!」
「当たらずも遠からず、かしらね」
「違うわよ何言ってんのロビン!」

勢い込んで言うと、彼は喜んだのも束の間すぐに肩を落とした。
そんなに否定しなくても、なんて声が聞こえてきそうだけれどそれはこの際無視。

「…じゃあ、も、もしかして悪口とか?!ナミさん、おれの悪いとこがあったら言ってよ!直すから!」

肩を落としたサンジ君が急に顔を青くしたものだから何かと思えば、思考が急激に悪い方へ転換したらしい。
すがりついてくる彼の腕が正直少し、ほんの少しだけ鬱陶しくて、私は腕を振り払った。

「別に、悪口も言ってないわよ」
「嘘だ〜!だってナミさん最近おれに冷たいじゃん!なんかおれナミさんに嫌われるようなことしたんじゃ…」
「別に、冷たくないわよ。いつも通りだから」
「でもさでもさ、サンジ君、て今まで用事あったら呼んでくれてたのに、最近呼んでくれねェよね…?」
「そ、それは別に…」
「うわー!おれやっぱり嫌われたんだー!」
「あーもう!うるさいわね!嫌ったとかじゃないわよ!」
「じゃあなんで…?」
「そ…それは…」
「言いづらいことなの?やっぱりおれ…」
「もう!違うってば!いつもいつもみんなの世話焼いてばっかりだから用事も頼みづらいのよバカ!あんたは私たちのお母さんか何か?!」
「え、そ、そうだったの?それだけ?」
「それだけで悪かったわね!こっちはあんたのこと考えて頼みごとを減らしてあげてたのよ?おかあサンジ君」
「…いや、おかあサンジ君て…」

売り言葉に買い言葉でまたエスカレートしてしまった。
フンと鼻を鳴らしそっぽを向いた私を目の前に、彼は私の言葉を繰り返し目を白黒させている。
暫くの沈黙の後、彼が徐に口を開いた。

「…おれ、あいつらのお母さんじゃなくて、ナミさんのお母さんでもなくて、もっと別なもんになりてェんだけど」
「…なによ?」

急に態度というか、纏う空気がふざけていた時とは変わって、少し驚きながらも平静を装い、私は彼を横目で睨みつけながら問いかけた。
彼はにっこり笑うと、突然、私の髪を一房掴み、そこに口づけを落とす。
そうして、そのまま耳元で囁いた。

「髪へのキスってね、あなたを慕っています、って意味があるんだよ?ね、おれのこと、お母さんじゃなくってさ、ちゃんと、男として見てくれる?」

あらあら、なんてロビンの声が聞こえた気がしたけど、私の頭の中は真っ白になっていた。
それと同時に、顔に一気に熱が集まるのが分かる。
口をパクパクさせる私の後ろで、お邪魔かしらね、ごめんねロビンちゃん、なんて会話がされて、ロビンの足音が遠ざかって行くのが分かったけど、私は何も出来ずにいた。

「えーと、ごめんねナミさん。困らせるつもりは無かったんだけど。おれ、ナミさんが好きだから、お母さんて思われるのはちょっと勘弁かな、って」

頬をかき照れたように笑う彼をバカみたいにじっと見つめるしか出来ない私は、纏まらない思考の中なんとか頷いた。

「今すぐ付き合って欲しいとか、そういうのじゃなくて、まずはおれのこと、ちゃんと男として見てほしいなぁ、って。ダメかな?」

私の手を取り跪いて彼は言う。
多分、サンジ君も緊張している。
握られた手が震えていたし、笑顔も少し力ない。
あぁ、一緒なんだ。

「…ダメ、じゃない」
「ほ、本当?!ありがとうナミさ…」
「ダメじゃないし!私はずっと、サンジ君のこと、男として見てたもの!」
「え…と、それ、って…」

顔を真っ赤にしてお互いを見つめ合って。
私たちのすれ違いはようやく終わって。
これから、新しく始めよう、2人で。





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