「サンジ、それなんだ?」

三段の大きなお重が3セットも並んだキッチンで、サンジが冷蔵庫から取り出した板にのった白とピンクの塊をチョッパーが不思議そうに見つめる。
サンジはニヤリと笑ってそれに包丁を通した。

「見てろよ。ほら、チョッパーのかまぼこの完成だ」

包丁を通すと断面に現れたのはチョッパーの顔を象ったかまぼこ。
これにはのんびりおやつに舌鼓を打っていたクルーたちも色めき立つ。

「すげー!!おれの顔だ!!」
「なんだそれサンジ!おれも!おれのも作ってくれ!」
「すごーい。かまぼこってそんなことも出来るのね」

カウンターに駆け寄ってきてきらきらと目を輝かせるルフィとチョッパーの口に一切れだけかまぼこを放り込むと切り分けたかまぼこを丁寧に二の重に詰めていく。

「「うめー!!!」」

二人して大声をあげたのを見てサンジは満足げに笑うと、麦わら帽子の絵が入ったかまぼこを切り分けてルフィに見せてやった。

「ほら、麦わらマークもあるから。ルフィお前はこっちで我慢しろ」
「いいなー。私も欲しい」

かまぼこを頬張り何度も頷くルフィ。
二人に続きカウンターにやって来たナミが頬杖をつき冗談めかして言う。

「ナミさんのはこれ!ミカン柄だよー!」

新たに取り出したかまぼこを切り分けると真ん中にミカンの絵があった。
それをナミの前に掲げ、サンジはだらしなく笑う。

「わっ、可愛い!ありがとサンジ君!」
「上手いモンだなぁ。つかコレ、もしかして全員分あんの?」
「当たり前だろ。ほら、これがロビンちゃんで、ウソップお前のはこれ、フランキーとブルック、マリモはこれだ」

次々切り分けられて姿を現わすかまぼこの模様に皆感嘆の息を漏らすが、最後に見せられたゾロのものだというかまぼこに今度は皆吹き出した。
というのも、かまぼこの真ん中に緑の塊があるだけ。
これは…あまりにも…

「カビみてェだな!」
「やっぱそう見えるか?いや〜マリモをイメージしたんだがな、カビみてェになっちまった」
「テメェ!ふざけんな!」
「ヨホホホホホ、ゾロさんそっくり…ヨホッ…ヨホホ」
「ブルック笑いすぎよ…ふふふっ」
「ゾロにスーパーそっくりだなァ」
「テメェら叩っ斬る!」

やはり怒り出したゾロの声を聞いてナミはため息を吐いた。
年末の忙しい時期にケンカをされてまたあれやこれやを壊されるのはごめんだ。
ゾロのものだというかまぼこを一切れ取ったナミは、背後で今にも刀を抜きそうになっているゾロを振り向き口に放り込む。

「美味しいでしょ?もう、そんなに怒らないの!」

唇に人差し指を当てられ上目遣いに言われてはゾロも口を噤むしかできない。
口に入れられたかまぼこは確かに美味しかったので噛み締めながら渋々頷いた。
ゾロが大人しくなったのを確認すると、キッチンのサンジを振り返りナミはにっこりと笑う。

「サンジ君がせっかく作ってくれたんだから。ね、サンジ君?」
「はい…でもナミサン…マリモにあーんはヤメテ…」

嫌がらせを込めて作ってやったのに、予想外に働いてしまったことに耐え切れずサンジがギリギリと歯を噛み締める。

「し、しかしすげェ量だな!それに豪華だし!こりゃ明日が楽しみだなー!」

不穏な空気を察したウソップがその場を取り繕おうとお重に詰められたおせちを指差して言った。

「あぁ、まぁな。うちの船は重箱一つじゃ足りねェだろ」
「おう!足りねェ!みんなすげェ食うもんなー」
「いやお前だよ!」

ウソップのツッコミと皆の苦笑いを物ともせずルフィはうんうんと頷く。
ふと、フランキーが何事か思い出したのか口を開いた。

「おうサンジ。そういやぁ頼まれてた杵と臼、甲板に出してるからな」
「あぁ、悪ぃな。お前ら、餅つき頼めるか?明日の雑煮に入れるから」

今度は鍋で炊いたもち米を取り出しながらサンジは言う。
バットに移したそれをウソップに手渡すと目を輝かせたルフィとチョッパーにすぐ様囲まれた。
ゾロも行こうとチョッパーに手を引かれ、ブルックも加わり5人は甲板へと慌ただしく出て行く。

「つまみ食いすんじゃねぇぞー」

5人に声をかけつつサンジは再びおせちの準備に戻り、料理を重箱に詰めていった。
ナミは、カウンターに肘をついてなんだかひどく楽しそうに笑いながらサンジの手元を見つめている。

「ナミさん、なんか楽しそうだね」
「ん?…うん。なんかね、こうやってみんなで年越しの準備なんて、幸せだなぁって」

照れ臭そうに頬を染めナミはふふ、と笑う。
思わず、サンジはキッチンから身体を乗り出しナミをがばっと抱きしめた。

「ナミさん…かわいい…!」
「きゃあ!なによいきなり!」
「おいコック、水…て、なにしてんだテメェ!」

水を貰いに再びダイニングに入ってきたゾロがその光景を見て怒り出し、引きはがそうとナミの背後から腰に手を回しサンジとにらみ合う。
なかなか戻ってこないゾロに痺れを切らしたルフィたちもダイニングに戻ってきて3人の姿をぽかんと見つめる。

「お前らなにしてんだ?おれもやる!」
「離れろマリモ!」
「てめェが離れろクソコック!」
「痛い!重い!離してってば!」

ルフィのその声と共にゴムの手が巻きつき、ナミは押しつぶされそうになりながら3人を押し退けようと身をよじる。

「楽しそうだなー」
「うふふ、ナミ、潰されなきゃいいのだけれど」
「…その冗談笑えねェよロビン…」
「ナミさんは大人気ですね〜ヨホホホホホ」
「おーい、オメェらほどほどにしとけよー」

静かに過ごすことなどやはり出来ず、騒がしい大晦日はあっという間に過ぎて。
来年もまた、みんなで。










人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -