「なぁ、いいのか、アレ…」

長鼻の狙撃手が指差したのは、人魚たちと戯れるこの船のコック。
2年ぶりに再会した彼は女を見れば鼻血を噴き出すようになっていて、ようよう回復したかと思えば、今度はひどくだらしない顔で人魚たちと追いかけっこしている。
2年前、仲間が散り散りになる時、彼と、オレンジの髪の美しい航海士は確か、恋人同士だったはずだ。
いや、魚人島に向かう深海で2人、静かに抱き合っているのを目撃してまったのも記憶に新しいのだから、まだ別れてはいないはずだろう。
その恋人が他の女を追いかけ回しているというのに、ナミは素知らぬ顔で酒を傾けている。

「もしかして、別れたのお前ら…?」

恐る恐るといった形で問いかけたウソップに、ナミは呆れた表情を浮かべ額を小突いた。

「別れてないわよ。…あいつの女好きは昔っからでしょ。病気よ病気。もう慣れたわ」

何でもないことのように言ったナミはそのままツマミにも手を伸ばし、気に留めた様子もなく杯を重ねていく。
2年前だって、サンジの女を好きは止まることを知らず、恋人がいるのにひどいものだとウソップは人知れず憤ったこともあるのに、当の本人たちは気にした素振りもなくお互いこの手のことには無関心だった。
おれだったら、もし、好きな女が見境なく他の男を追いかけ回していたら、いい気はしない。
そう思うのは当たり前だろうし、目の前の女、ナミも同じくそうであろうと思ったのに、彼女は怒る様子もなく周囲と談笑している。

「なぁ、言い辛いなら、おれがガツンとサンジに言ってきてやってもいいぜ?」

いつも豪快にクルーたちに拳骨まで落とす彼女も、もしや恋人には弱いのかと助け舟でも出すつもりで耳打ちしてやったのに、ナミが向けるのは相変わらず呆れた表情だけで、なんだかこちらが拍子抜けしてしまう。

「あのねぇ、ウソップ。さっきも言ったでしょ?女好きなのがサンジ君。女に現を抜かしてないサンジ君なんかサンジ君じゃないでしょ」

クスクス笑いながら人魚を追いかけるサンジを見やり、ナミは言う。

「それに、いざという時は私だけの王子様になってくれるしね」

ナミのサンジを見つめる目は優しく、怒った素振りは少しもない。
言われたことを理解はしても、同意は出来ないと、どこか煮え切らない心持ちでウソップは腕を組みしかめ面でサンジを睨んだ。
未だ納得をしていないウソップの様子に困ったようにナミは笑う。
普段はこんなこと口には出さないのだけど、魚人島のお酒が美味しいからつい口が軽くなったのだと、自分に言い訳をして、ナミは続けた。

「私ね、サンジ君の丸ごとを愛してるのよ?誰かを変えようと思う時点で、それは愛じゃない。幸せっていうのは、相手のそのままを受け入れるからこそ感じられるものなの」

そう言ってにっこり笑った航海士は、伸びをして、この話は終わりとばかりに立ち上がる。

「飲み過ぎちゃった!ゾロー、あんたも行かない?酔い覚まし」

寝転んでイビキをかいていた剣士を踏みつけると、寝ぼけ眼の男を引きずってナミはそのまま宴の輪から抜け出した。
その頬が、酒のせいだけでなく赤く染まっているのに気づいて、どうやらあの小悪魔な航海士も相当にコックに入れ込んでいるらしい、いらぬ気遣いをしてしまったウソップは寝転んだ。
おれにはまだ、愛だの恋だの、語るのは早いようだとため息を吐きながら、その愛を一身に受けるサンジに心の中で悪態をつく。

(お前、相当に愛されてるぞ。愛想尽かされないように、せいぜい気をつけろよ?サンジ)



「おいウソップ!ナミさん知らねぇか?」
「……サンジ、お前本当いい女手に入れたな」
「あァ?!そりゃナミさんは世界一の女性だけどな…。なんだ急に…。気持ち悪ィな…」



誰かを変えようと思う時点でそれは愛じゃない。幸せっていうのは相手のそのままを受け入れるからこそ感じられるもの。(ジェシカ・シンプソン)




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