「え…ナミさん病気…?」

麦わら帽子をかぶった今や知らない者はいないドクロを掲げた船は穏やかな海を行く。
皆の朝食をテーブルに並べ終えたこの船のコックは、たった今ダイニングに現れた船医と考古学者から聞いた言葉に固まりタバコを落としそうになっている。

「えぇと…今日一日休んでれば大丈夫だよ。
薬ももう塗った…あ…いや…飲んだし!」
「うふふ、サンジ、お見舞いに行ってあげて?みかんジュースとか、ビタミンが取れるもの、持って行ってあげてね」

挙動不審に目を泳がせるチョッパーと、いつも通り優雅に微笑むロビン。
二人とも一言言うとそれぞれ席につき朝食を取り始めてしまった。
ロビンの為に珈琲を用意しながら昨夜のことを思い浮かべるが、彼の想い人は海図をまとめると図書室に閉じこもっていてまともに会話をした覚えがない。

(夜更かしがたたって風邪ひいたのか…?いやでもチョッパーのやつ、塗ったとか口走ってたけど怪我…?)

悶々と悩みつつ珈琲を作る手は止めない。
ロビンの好みにブレンドした珈琲を彼女に給仕するとテーブルに頬杖をつく。

「ね、ロビンちゃん。ナミさんどんな様子?
おれ、部屋行っても大丈夫なの?」

ロビンはクスリと笑って珈琲を一口飲み口を開く。

「ナミったら可愛いのよ。サンジが行ったらきっと元気になるわ」

何を思い出しているのか、ロビンはクスクスと笑いが止まらない様子だ。
それまで必死に目の前の朝食をかきこんでいた船長が人心地ついたのかふとダイニングを見渡しようやく航海士の不在に気づいた。

「ふぁみひょーきふぁのかー?(ナミ病気なのかー?)
んんっ!サンジ、見舞いに行け!船長命令だ!」

ルフィは口いっぱいに頬張った食べ物を飲み込みながらサンジを指差した。

「…食い終わってから喋れよ。…了解、キャプテン」

ルフィに言われずともそのつもりだったが、船長命令という名目があれば彼女の元にも向かいやすい。
まずはロビンに言われたみかんジュースだ。
食べ物は、様子を見てからがいいだろう。
病気なら消化の良いものがいいかもしれない。
レシピを頭に思い浮かべながらすっくと立ち上がり準備を進め始めた。




「ナミさん…?入るよ?」

遠慮がちにノックをし一声かけると女部屋に足を踏み入れる。
灯りのついていない薄暗い部屋の中で片方のベッドに膨らみを見つけた。
ベッドに近づいて覗き込むと目元まですっぽりと布団で覆ったナミの姿があった。
柔らかな髪に思わず手を伸ばしたくなりそっと頭を撫でる。
身じろぎをしたナミは薄く目を開けると未だ焦点の合わない瞳をサンジに向けた。

「…ん」

「あ…ナミさん、起こしちまった?
具合、どうだい?」

みかんジュースをベッドサイドに置くとしゃがみこんでナミと視線を合わせる。
ぼんやりとしていたナミも徐々に目が覚めてきたのか、サンジの姿を見つめる。
次第にその目が大きく見開かれていき、勢いよく布団を頭がすっぽり覆いかぶさるまで引き上げてしまった。

「な…なんでここにいるのよ…!早く出てって!」
「え…え…?ナミさんの顔見に来たんだけど…もしかして具合悪い?!すぐチョッパー呼んで」
「平気よ!いいから!出てって!」

遮るように布団の中からただただサンジを否定するくぐもった声をあげるナミにどうするべきかわからず伸ばしかけた手をさ迷わせる。
暫くナミの潜り込んだ布団を見つめていた。
何に意地を張っているのかはわからなかったが、こうなったら彼女がテコでも動いてくれないであろうことは、サンジは重々理解していた。
小さくため息を吐くとナミに声をかける。

「…飲み物、置いとくから…ちゃんと水分取るんだよ?
おれ…もう行くから…」

ナミの反応はない。

「ナミさん…おれ、本当に行っちまうからね…?
………
ナミさん…本当に、本当に…」

「あぁもう!うるさいわね!大丈夫だから早く行きなさいよ!」

サンジのしつこさに痺れを切らし思わず布団から顔を出し声を荒げたナミは次の瞬間ハッとして上体を起こしたまま布団を目元まで引き上げる。

「ナミすゎん!」

サンジは再び枕元までやってくると布団ごとぎゅっと彼女を抱きしめた。

「ね、どうしたんだい?
心配なんだ。…ナミさんの顔、見せてくれねぇかな?」

なんとなく、なんとなくだがナミの行動から彼女が執拗に顔を見られるのを嫌がっているようにサンジには思えた。
なだめすかすように布団の上からテンポよく背中を撫でてやると黙っていた彼女がぽつりと呟く。

「…やだ」

「ナーミさん?なんで?
おれ、このままじゃ心配で何も手につかねぇよー…」

「…いや…」

「ナーミーさん?」

「もう!しつこいわね!」

暫く問答を繰り返すとナミは諦めたのか大きくため息を吐きようやく否定以外の言葉を口にした。

「顔、見られたくないの…。
だって…」

「だって…?」

沈黙が一際長く感じられ、サンジの腕と、布団に包まれたナミはもぞもぞと布団から顔を出す。
俯いたままで長い髪がその表情を隠し、サンジには見えなかったがひどく悲しそうな声で告げた。

「…ニキビ、できちゃったんだもん…」

「……………………へ…?ニキビ…?」

もっと重大なことが起きたのかと身構えていたサンジはぽかんと口を開け固まった。

「ちょ、ちょっと、何よその反応!こっちはずっと気にして…!」

サンジから何の反応もないのを訝ったナミは顔を隠していたことも忘れて思わず顔を上げてしまい、口を開けたまま固まったサンジの表情を見ると声を荒げた。
サンジは鼻の頭の赤くなったニキビを見るとそっとナミの頬に手を添えた。
見られたくないと思っていたニキビをさらけ出してしまっていたことにようやく気づき俯こうとするが頬に添えられたサンジの手がそれを許さない。

「そっか…ニキビ、おれに見られたくなかったの?…なんで?」

こうなると形勢は逆転しサンジはニヤリといたずらっぽい笑みをナミに向けた。

「だって…前、肌が綺麗なナミさん好き〜、って、言ってたじゃない」

「え?んなこと言ったっけ?」

「言った!この間、飲んだ時!どうせニキビとかできてる女なんか嫌いなんでしょ?!」

ヒステリックに叫ぶナミを宥めるように背中に回した手で優しく撫でながらサンジは頭のなかで情報を整理する。

(この間飲んだ時って…おれが酔いつぶれた時だよなぁ…。言ったのか?いや、言ったんだろうな。んで、その言葉を真に受けたナミさんはおれに顔を見られるのを嫌がってる。…てことは)

「えーと…つまり、ナミさんはさ、おれに嫌われると思って、顔見せてくれなかったの?」

サンジの問いかけにナミの顔が赤く染まる。
視線をそらして口を一文字にして、黙りこんでしまった。
サンジはナミの手を取り海図を描き続けているせいか出来てしまったペンだこに唇を寄せる。

「おれ…ナミさんのそのスタイルの良さが好き。綺麗なオレンジの髪も好きだし、声も好きだ。長い睫毛も、唇も。
…んで、それと同じで肩の傷跡も好き。戦闘でついちまった傷だって同じだ。このペンだこだって好きだよ?」

「おれね、ナミさんの全てが愛しいんだ。全部、全部愛してる。たとえナミさんがしわくちゃのおばあちゃんになっちゃっても愛してんだぜ?だからさ、顔見せてよ?な?」

頬を両手で包み込むと額を合わせる。
ナミはおずおずとサンジを見つめ返し、拗ねたように唇を尖らせるとサンジの頬をつねった。

「…しわくちゃのおばあちゃんになんか、ならないもの」

「えぇっ!そこ?!」

「…冗談よ。…その、サンジくんがどれだけ私にぞっこんか分かったわ。……ありがと」

照れ隠しにそっぽを向きながらぶっきらぼうに答えながらも、ナミはもう顔を隠そうとはしなかった。

「へへ…ナーミさん、かわいい。大好き。愛してるよ!」

きつく抱きしめると、ナミも躊躇いがちに背に手を回し抱きしめ返した。



肌荒れに効く料理、作るからね!

…うん。

でもさ、きっと夜更かしもいけねぇんだよ?なんならおれが添い寝してあげ…

バカ!アホ!エロ!

痛ぇ!殴らなくてもいいじゃんナミさーん…





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