「…食べにくい」

ぽつりとナミが呟くと、やはりというか、すぐにサンジが騒ぎ出した。

「ナミさん!はい!おれ!おれが食べさせてあげる!」

右手を骨折したナミは左手で食事をしていた訳だが、まぁ利き手じゃない手で普段と同じことをしようとするのは大変だろうなぁと他人事に思う。
このウソップ様なら器用に使いこなしてみせるがな!
と、そんなことを思っている間にサンジがナミのところにへばりついていた。

「ナミさんナミさん、はい、フォーク貸して?あーん」

サンジくん…?フォーク奪ってナニヤッテルンデスカネ…。
ナミも気にせず食うなよ!
これもっと食べたい、じゃねぇよ!
おいおいおい、おれのお隣の大剣豪サマが青筋たててらっしゃるのに気づけよ!
一人隣の席から発せられる殺気にたえつつ、おれは何も知らない、おれは何も知らない、と唱えながら黙々と食べ進める。
他のクルーは我関せずだしよ…。
誰か止めてくれ…。

おれにとって地獄の時間となった食事がようやく終わり、やっと解放される…と思った時にまた新たな爆弾が投げられてきた。

「ナミ、読んでしまいたい本があるから、今日はお風呂、誰かと先に入っていてくれる?」

にっこりと、そりゃもう優雅に食後のコーヒーを飲み微笑みながらロビンが言った。
手を怪我してから、ナミはロビンに助けてもらいながら風呂に入っていた。
で?うちの船は女2人しかいない。
なのに誰かと入れだー?!
なに言ってんだロビン!

「えぇー…すぐお風呂入りたかったのにー…」

サンジに入れてもらった紅茶にふーふー息を吹きかけてたナミは唇を尖らせて拗ねたような表情を浮かべている。
またもやサンジが反応して手をあげている。

「はいナミさん!おれが洗ってあげ…」

「ゾロお風呂手伝って!髪とか、洗うの大変なのよ」

サンジの言葉を無視してうちの無自覚鈍感魔女が声をかけたのは、ずっと殺気を漂わせてたゾロだった。

「…わかった。準備してこいよ」

ナミの一言ですぐに機嫌が直ったゾロはサンジに勝ち誇ったような笑みを浮かべて席から立つ。
最も、ナミの一言に固まったサンジには見えてなさそうだが…。
はーい、と返事して立ち上がったナミに、最後の爆弾を投げ込んできた奴がいた。

「ゾロ!ナミ!身体を温めすぎると患部が痛むから、風呂場で交尾はダメだぞ!」

………………。
この船、常識とか、遠慮とか、理解してないやつ、多すぎやしませんかね…。
チョッパーの一言にサンジは燃え尽きた灰みたいになって隅でなんかぶつぶつ言ってる。
嘘だ…夢だ…って。現実ですよサンジくん!

「分かってるわよ。湯船も暫くダメなんでしょ?ちゃんと注意してるわ。ね?」

「おう、最近はベッドの上だし、まぁ、無理はさせねぇようにしてるからな」

明け透けな会話にもうおれは何も聞かない!何も知らない!と決め込んで席を立った。
ダイニングから甲板に出ると満天の星が広がっていた。
あぁ、星が綺麗だな…。
もう今日は寝よう。そうしよう。
これ以上火の粉がかからないように。

大剣豪と航海士が船医の言いつけをちゃんと守ったのか、それは本人たちのみぞ知る。







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