嵐を抜けた!
そう、油断したときだった。

最後の大波がサニーを襲い、気がついたら手すりを乗り越え芝生甲板に叩きつけられていた。

ナミ!
ナミさん!

口々に仲間が私を呼ぶ声が聞こえる。
大丈夫よ、と笑って立ち上がろうとしたけど、なんだか右手が酷く痛む。
受け身を取った時に突き指でもしてしまったのだろうか。
右腕を庇いながらなんとか上体を起こす。
駆けつけてきたチョッパーは庇っていた手を見ると表情を曇らせた。

「指を骨折してるよ。…すぐに治療しなきゃ」

心配そうに私の周りを取り囲む仲間たちの真ん中でチョッパーに右手を取られた私はまじまじと自分の右手に目をやる。
指が、あらぬ方向を向けていた。
骨折、それを認識すると急に痛みが増してくるように感じる。
じわり、視界がにじむ。

「チョッパー、すぐ治療だ!」

「う…うん。でも…今、麻酔がきれてるんだ。折れた指の骨を元の位置に戻さなきゃいけないんだけど…麻酔がないと…」

「次の島に着くのは1週間後よね?それからでは?」

「ダメだ!すぐ治療しなきゃ骨がこのままくっついちゃうんだよ!そしたら…海図だって描けなくなっちゃうよ…」

チョッパーの話から察するに、早急に治療が必要な部類の怪我らしい。
放っておけば、私の夢が実現出来なくなってしまうほどの。
確かに人差し指や中指がおかしな方向に曲がったこの状態では海図どころか文字を書くのも難しそうだ。
それならば、取るべき行動は一つ。

「チョッパー、治療して。お願い」

「で、でも!麻酔がなくて…す、すごく、ものすごく痛いぞ!」

「大丈夫だから。海図が描けなくなるのが一番嫌。だから、お願い」

痛いのは嫌だ。
海賊相手に泥棒してきて少しは死線もくぐり抜けてきたつもりだけど、ルフィやゾロみたいな戦闘バカとは違う。
でも、夢を実現できなくなる方が辛い。
クルー達は一様に表情を曇らせていたけど、それまで黙っていたルフィがニッと笑って声をあげた。

「ナミ!いけるか?」

まるで遊びにでも誘うみたいに言う。
だけど、その問いに対する私の答えは一つだ。

「当たり前でしょ?私を誰だと思ってんのよ?」

ルフィをじっと見つめ返す。
すると、いつもの笑みを浮かべたルフィは麦わら帽子を私の頭にかぶせてきた。

「おれの航海士なら大丈夫だ!チョッパー!ナミの手治してくれ!」

船長がこう言ったなら否の声をあげる者はいない。
サンジ君は心配そうにそわそわしてるけど、治療のために動き出したチョッパーの指示に皆従った。




「ルフィ、ナミの身体を押さえてて。ゾロは足を。ナミ、これ噛んで」

医務室のベッドの上。
ルフィにゴムの手を巻き付けられて背後から羽交い締めにされ、足の上にはゾロが乗り、おまけに筋肉隆々の腕で足を押さえつけられた。
まるで襲われているかのような格好に、可愛いって罪ね、なんて場違いなことを考えていたら口にタオルが押し込まれた。
たぶん舌を噛まないため?
そんなに、そんなに痛いのかしら。
不安になってくる。
ヒト型になったチョッパーが私の右手を取る。
折れた指先に軽く触れるとそれだけで痛みが走った。

「じゃあ、始めるからな」

やっぱり怖い、なんて声をあげる間も無く襲ってきたのは強烈な痛み。
骨折した指を元の位置に戻すために無理やり骨を動かすという、治療。
なんて原始的なの…。
身体を仰け反らせて歯をくいしばるしかなくて涙が後から後から溢れてくる。
まだ数秒しかたってないのか、それとももう何時間も経ったのか、時間の感覚すらわからなくなって、私は意識を手放した。


次に目にしたのはアクアリウムの天井。
あれ、なんでアクアリウム?何してたんだっけ?あ、あの魚綺麗。
とか考えて寝返りをうとうと手を動かしたら痛みが走った。
右手を見ると包帯でぐるぐる巻きにされてる。
そういえば骨折したんだった。
それで、死ぬほど痛い治療を受けて、それから、どうしたんだっけ?
寝返りをうつとゾロが隣で寝転んでいて腕を枕にこちらをじっと見ていてぎょっとした。

「お、おはよう…」

「おう、平気そうだな」

不敵な笑みで、顎で右手を指す。
小さく頷きながら混乱した頭で矢継ぎ早に質問を問いかけた。

「えっと…あんたなんでここにいるの?ていうか、私もなんでここにいるの?」

ゾロはゆっくりと起き上がり伸びをしながら口を開く。

「お前、治療中に気ィ失ったんだよ。んで、治療終わった後ルフィがお前と一緒に寝るって言い出して、みんなでここで雑魚寝」

言われて気づいたが、周りには枕やら掛け布団やらが散らかっている。
ケスチアにかかった時みたい。
みんなついててくれたんだ。

「…で、みんないないけど、なんであんただけ?」

「メシ食いに行ってる。おれは…いま起きたんだ」

いま起きたって、さっき私のこと見てたのはどこのどいつよ、そんなこと思いながら起き上がる。
なんだかんだ、ゾロは優しい。
たぶん寝たふりをして私が一人にならないように側についててくれたんだろう。

「ゾロ、ありがと」

「あ?礼ならチョッパーに言えよ」

「うん。言う。でもあんたにも。私、あんたのそういうとこ好きよ?」

満面の笑みで言ってあげたら、ゾロは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

「照れてるの?」

「照れてねぇよ!」

「素直になりなさいよー」

「だから照れてねぇって言ってんだろ!」

ゾロをからかっていたら外からみんなの声が聞こえてきた。

ナミ起きたかなー
もう治ったかもしれねぇな!
んな訳あるか!
お目覚めに爽やかなドリンクを差し上げるぜ!ナミすゎん待っててねー!
ナミ、寝相が悪いから、悪化してないかしら
それならおれがスーパーな腕をつけてやるぜ!
ヨホホホ!今日のパンツはなんでしょうねー

いつもと同じ仲間の様子に自然と笑みがこぼれた。
みんなが来てくれたら、1番に言わなきゃ!

心配してくれてありがとう!

って。
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