顔も見たくない、会話も交わしたくないと思う相手なのに、航海士である以上船の進路についてこの男とやり取りをしなくてはならない。
椅子一つ分を開けて座った私とトラ男くんは(隣に座ろうとしたのを私が断固拒否した)ダイニングのテーブルに広げた海図を見ながら今後の航路について話を進める。
ドレスローザへの航路について熟知しているのはトラ男くんだけ。
私情を挟まず極力冷静に、必要最低限の確認だけ済ませると私は海図を丸め立ち上がった。

「ナミ屋、まだ話がある。ここにいろ」

「イ・ヤ!私の話は終わったわ。じゃあね変態」

気にせず立ち去ろうとすると向かいに座ったフランキーがすぐ様反応する。

「呼んだか?」

「あんたじゃないわよ!」

能天気な声にイライラしながら声を荒げる。
先日トラ男くんから受けた仕打ちをクルーに話してから、私の側には交代で誰かしらがつくようになった。
今日はフランキーの番、という訳なのだが、彼とブルック、ロビンの大人組はトラ男くんの変態行為を面白がっている節がある。

「少しくらい話してやればいいじゃねぇか。そうイライラすんなって」

飲みかけのコーラをテーブルに置いたフランキーは椅子に座るよう私を促す。
それも無視してダイニングを出ようと扉に向かう私に、トラ男くんはとんでもないことを言ってきた。

「ナミ屋、生理中だからってそうイライラするな。痛むなら薬をやるぞ?」

ドアノブにかけた手を止める。
この男は、今なんと言った?
思わず振り返り震える声で問いかけた。

「……ちょっと待って。何であんたが知ってるの?」

「始まったのは昨日だろう?ナミ屋が入った後のトイレにまだ暖かい生理用品があったからな」

「おま…それは流石のおれでもやらねぇぞ…」

ドン引きするフランキーを他所に頭の中でぐるぐると思考が渦巻く。
この男は、私がトイレに行くのをつけて、使用済みの生理用品を探った?
意味を理解したのと同時に全身に鳥肌がたち後ずさる。

「ナミ屋にはいずれおれの子どもを産んで貰う。月経周期を把握するのは当たり前のことだろう?」

何がおかしいとでも言うように平然と言う彼の様子にフランキーと二人して言葉を失った。

「少し出血が多いようだが、異常がないか診察してやる。子宮は沈黙の臓器と呼ばれているからな。定期的な検診を欠かさない方が良い。さぁ、早くこっちに来い」

「あー…ナミ、こいつはおれが見とくから…」

青ざめドアに凭れかからないと身体を支えられない私にフランキーはそう言い、トラ男くんの隣に行くと肩を組んだ。

「おめぇ…恋とかしたことねぇだろ…」

背後でフランキーとトラ男くんが何か話す声が聞こえたけど、もう一刻も早くその場を離れたくてダイニングから足早に立ち去った。
その足でトイレに向かい汚れ物を片付けたのは言うまでもない。


ローの奴に追いかけ回されているナミさんは最近お疲れ気味だ。
おれ特製のオレンジゼリーを食べる手も止まりがちで、顔色も冴えない。
おれとルフィ、マリモでシメてやったというのに懲りない奴は今日も先ほどまでナミさんに纏わり付いて、マリモに斬りつけられていた。
最近のナミさんとトラ男の攻防を見ていて、疑問に思ったことが一つある。
ナミさんは、トラ男を殴らない。
心底嫌がっているのは確かで、それならいつもみてぇに殴り飛ばしてやればいいのに、それは決してしない。
まさか、嫌がっているように見えて実は…?
ずっと疑問に思っていて、だがなかなか聞けなかったことを、ナミさんの向かいに座り恐る恐る問いかけた。

「ナミさんはさ、トラ男は殴らねぇよな。うちの野郎どもは構わず殴るのに」

少なくなってきたティーカップに紅茶を注ぎ平静を装いながら問いかける。
するとナミさんはゼリーを食べる手を止めて、

「あぁ、もう、触れたくもないの」

そう言った。

「…そ、そっか」

ひどく冷めた声で、瞳で、言うナミさんにおれはそう返すのがやっとで曖昧な笑みを浮かべる。

「何かされそうになったらすぐ言うんだよ?ナミさんの為ならおれはなんだってするから!」

このままじゃイカンと拳で胸を叩き笑ってみせるとナミさんはじっとこちらを見て、それから口を開いた。

「…じゃあサンジ君、あいつ海に沈めてきて」

ナミさんの笑顔がおれは好きだ。
だけど、今のナミさんの笑顔はにっこり笑ってるのに目の奥が笑っていない、そして淡々と話す声。
これは本気だ…!

「い…やー…同盟船の船長だしな…そ、そりゃあまずいんじゃ…」

「そうね。私もそう思ってた時期があったわ。同盟組んでるんだから、とか、ルフィの命の恩人なんだから、とか」

紅茶を一口飲んでナミさんは一息吐いた。

「でも!ねぇ!着替えやお風呂を覗く、起き抜けに布団に忍び込んでくる、お風呂に入ってる間に脱いだ下着を盗ってく、使用済みの生理用品をあつめる、使ったストローを収集する、ゾロと、シてるときの録画をする、他にもたくさんあるのよ!こんなやつと、私、いつまで一緒にいなくちゃいけないの…?」

言い終えて手で顔を覆ったナミさんから聞かされたやつの数々の愚行におれは言葉を失った。
フランキーが、ありゃあ手がつけられねぇ本物の変態だ、と言っていたのを思い出す。
まさかここまでとは…。
さっさとドフラミンゴを倒してローにはうちの船からご退場願おう、それまでは彼女に近づかせねぇように、いっそ縛り付けてでもおいた方がいいんじゃねぇか、と決意を新たにしながらタバコを灰皿に押し付けた。
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