カランと音がしてお客さんの来店を知らせる。
いらっしゃいませ、という言葉と共に顔を上げた。
赤毛のポニーテールに青色の瞳、端正な顔立ちでとても背が高い。
ロックコンサートにでも行くのかという格好はこの店には少し不釣り合いな気がした。


私一人でやっている決して広いとは言えないアンティークショップ。
一人お客さんが入ると一気に賑やかに見えるような広さ。
やってきたお客さんが商品を見始めたのを確かめて私は再び顔を下ろした。
商品の一覧が載っているファイルを眺めるのが暇潰しの方法。
アンティークショップはそんなに次から次へと人は来ない。


「あの」

「……はい?」


いきなり声を掛けられて反応が遅れてしまった。
先程まで入口付近の商品を見ていたと思うのだけど。
ファイルを閉じて赤毛のお客さんに向き合う。


「女性へのプレゼントを探してるんですが、何か良い物はありませんか?」

「女性へのプレゼント、ですか」


もしかして、恋人へのプレゼントだろうか。
確かにこの顔立ちならばモテモテだろう。
そんな事を考えながらそうですねぇと呟く。
ファイルを見ても良いのだけど、今回は頭の中で商品を思い浮かべる。


「女性なら、アクセサリーはどうですか?」

「アクセサリー」

「指輪とか、喜ばれますよ」


指輪、と呟いた彼の前に指輪のケースを差し出す。
そんなに種類がある訳では無いけれど、中には高級な物もある。
ついでにネックレスやピアス、イヤリングも隣に置く。
彼はケースを覗き込んで次々と商品を見る。
先程よりも近くなった顔に少しだけドキリとした。


「あれ、何ですか?」

「え?ああ、あれはペアグラスです。イタリア製ですよ」

「ペアグラス」


よく見えるようにと持って行こうと手に取る。
もう一つ持ち上げた瞬間、それ下さいと声がした。
慌ててよく見えるように目の前に差し出す。
確認するように青色の瞳がグラスを上から下へ見る。
そして満足したように微笑んで下さいと繰り返した。


割れないように包んで袋に入れて彼に渡す。
お代を受け取って立ち去ろうとした彼を呼び止める。
メッセージカードを引き出しから出して、それを差し出した。


「あの、これサービスです」

「良いんですか?」

「はい。喜んで貰えると良いですね」

「……僕は、ビル・ウィーズリーです」


そう名乗った彼は私の手を取り、甲に唇で触れる。
いきなりの行動にポカンとしていると彼はにっこりと笑った。


「母が喜ぶと思います。また、来ますね」


カラン、と音が鳴って彼は外へと出て行く。
今のは一体何だったのだろうか。
よく解らないけれど、心臓はドキドキと一定のリズムを刻んでいる。




(20130716-20131224)
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