七年間というのは案外長いと思っていたのだけど、どうやら短かったらしい。
毎日ジェームズ達と騒いでいるのはとても楽しいと思う。
あらゆる学年の女達に言い寄られるのだって悪い気はしないものだ。
授業やレポートはつまらないけれど此処に居る以上仕方無いと思っている。


けれど、その中で不可解な事が一つだけあった。
何と現して良いのかさっぱり解らない感情。
心の中に引っ掛かってずっと離れなかった物。
今日それが解るだなんて、理解出来なかった自分を殴ってやりたい。


「悩もうが溜息を吐こうが別に構わないけど、ご馳走を前にした時には辞めて欲しいんだけど」

「リーマスの言う通りだよ。シリウスが情けない顔してるとリリーが嫌がるだろう?」

「いや、それは知らねえけど」


これでもかと言う程砂糖を入れているリーマスを見て途端に気持ち悪くなった。
ジェームズはピーターを巻き込んでリリーがリリーがと騒いでいる。
相手をするような気になれず、とりあえず目の前の紅茶に手を伸ばす。


結局考え込み過ぎてしまって余り食べられなかった。
人が少なくなって来たので溜息を吐いて立ち上がる。
もう六年生も終わりで、来年はきっと勉強ばかりの年になるだろう。
ジェームズやリーマス、ピーター達と過ごせるのは最高だ。
けれど、このモヤモヤとした気持ちは残ったまま。
もう一度溜息を吐いた時、後ろから誰かがぶつかった。


「あ、ごめんなさい」

「俺も悪…い」

「あらブラックくん、久しぶりね」


ふんわりと微笑んだ彼女はとても綺麗でざわりと心が騒ぐ。
話した事があるのはたったの一度だけ。
擦れ違っても挨拶もしなかった、本当に他人の関係。
同じ寮でも学年が違えばそんなものなのだと思う。
俺は彼女の名前だって、知らないのだ。


「あ…卒業、おめでとう」

「有難う。ブラックくん達の楽しそうな様子が見られなくなるのは少し寂しいわ」

「え?」


首を傾げると彼女はクスクスと笑いながら有名だから、と言われる。
彼女に知られていないなんて思っていなかったけれど何となく嫌になってしまう。
もしかして過去にどうしようもない事をしてしまったのではないか。
そんな事ばかり気になってしまうけれど話しかけてくれるのならば大丈夫かもしれない。


「なあ、何処に就職したんだ?」

「魔法省よ。魔法法執行部」

「魔法法…そうか」

「…なんてね。本当はダイアゴン横丁にある小さな雑貨屋さんよ」


悪戯に笑って彼女はかっこつかないわ、と呟く。
そんな事は無いと言えばまたふんわりと微笑んだ。


「あの、悪い。俺名前、知らなくて…教えて欲しい」

「ふふっ、私の名前を知ってどうするの?」

「え…いや、だって、」

「そうね、じゃあダイアゴン横丁で待ってるわ」


彼女はその言葉と笑顔を残して少し前を歩く友人と思われる人達の元へ走っていく。
後ろ姿を見ながら、頭の中では既にダイアゴン横丁の地図が浮かんでいた。




(20130319-20130716)
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