「ねえビル、私何からやれば良いと思う?」
「提出期限の近い順に並べなよ」
そう言って私の目の前にある教科書を並べ始めるビル。
課題を忘れていた訳ではなくてやろうとは思っていた。
けれどいざ教科書を開くとどうも眠くなってしまう。
それでも頑張って書いた事もあるけれど翌日見たらとても読めるものではなかった。
だからという訳では無いけれどいつもビルに頼ってしまう。
「とりあえず、変身術かな。これは得意な呪文じゃない?」
「実技はね」
「解らないところは教えてあげるから」
ほら早く、と羽根ペンを持たされて教科書を目の前に置かれた。
渋々羽根ペンを持って教科書の文章に目を向ける。
教えて貰うと言ったって、とても困った事に解らないところが解らない。
私と頭の良いビルでは根本的に頭の作りが違うのだと思う。
適当に羽根ペンを動かしているとビルの笑い声が聞こえた。
首を傾げると長い指が私の羊皮紙の一箇所を指す。
「此処、間違ってる」
「あー…本当だわ」
クスクス笑いながらビルが杖を振るとインクが吸い取られていく。
正しく書き直しても間違いがおかしかったのかまだ笑っている。
ムッとしながらも私にしては頑張って羽根ペンを動かす。
「いつまで笑ってるの」
「ごめんごめん」
あーおかしい、と言いながら息を吐き出したビルはやっと落ち着いたらしい。
其処からのビルはいつものように教科書から的確な文章を抜き出しては私に教えてくれた。
流石は頭の良いビル、と感心しながらひたすら羽根ペンを動かす。
気付けば次から次へ課題が終わり、完成した課題が増えていく。
最後の課題を書き終わったのは夕食の時間の少し前だった。
文字を書き続けた手は痛かったけれどこれで明日の日曜日を楽に過ごせる。
「有難うビル!ビルが居なかったら私やっていけないわ」
「どう致しまして」
「ちょっと早いけど大広間に行かない?私片付けて来る」
教科書と羊皮紙の束を纏めて鞄に突っ込むと後ろから名前を呼ばれた。
思いの外近い位置に居たビルに驚いていると持っていた鞄がいきなり消える。
何故だろう、と思っていたら杖が目に入って納得した。
「偶には、僕に何か還元してくれても良いと思わない?」
「え?えっと蛙チョコがある…あ、鞄の中だわ」
「そうじゃなくて」
手を掴まれてビルに引かれるままに進む。
談話室から出て廊下をどんどん進んで階段を降りる。
ひたすら足を動かしているけれど、会話は無い。
だから歩きながらビルに何か出来るお礼を考えていたら思い切りぶつかった。
痛む鼻を押さえながらいきなり立ち止まった事に文句を言おうと顔を上げる。
そこで初めて此処が人気の無い校庭だと気付いた。
「ビル?」
「こういう事は、人気の無い場所だと思わない?」
いつもと全く変わらないビルだけど、何かが違う。
身構えながら次の言葉を待っていたらビルの顔が近付いて来て、気付いてしまった。
触れるか触れないか、とても近い位置でビルが微笑む。
「やっと気付いたの?」
「う、うん」
「遅いよ。抵抗しないなら、しちゃうけど?」
言葉を返す事が出来そうになくて、かと言って頷いたら触れてしまいそう。
返事の変わりに軽くビルの手を握ると嬉しそうに笑って唇が触れた。
(20130319-20130716)
待人を迎えに