ボールを追いかけて何人も走っている。
遠くの方では走っていたり、バットを振っていたり。
遠くにある音楽室からは楽器の音が聞こえている。


皆それぞれ部活に打ち込んでいるのに、私は教室でプリントに向き合っていた。
今日中に出せと魚の目に見られて言われたのを思い出す。
先生の事は確かに好きで、好きすぎる位なのだけど。
よくあるフィクションのような恋。
だけど好きなものは好きな訳で、それでもこのプリントはまた別問題だった。


「終わったかー?」


教室の入口を見ると先生がやる気なさそうにこちらに入ってくるところ。
先生がのんびりと歩いて私の前の席に座るまで目が離せなかった。
私の半分以上空欄のままのプリントを覗き込んで何かぶつぶつと呟く。


「お前さー、先生は忙しいんですよ?」

「飴を食べる事に忙しい、じゃないですか?」


わかる?なんてニュアンスで聞かれたからからかうように返す。
しかし先生は少し何か考えて笑っただけだった。


再びプリントに目を落として古語辞典をパラパラ捲っては書き込んでいく。
ガサゴソと先生が動いていたけれど、気にしない。
多分よくあるのは先生の視線が気になって書き込むのも一苦労だなんて場面。
しかし、私はそんな事は気にしなかった。
だって先生と生徒なのだから、この恋は進展しない。


「私だって、忙しいんですよー」


お目当てのページに指を置きながら呟く。
空欄をまた一つ埋めて、漸くプリントは半分埋まった。
何気なく先生を見るとその両目が私の両目を捉える。
先生はずっとこちらを見ていたらしい。
どういう言葉を発するか頭を動かしても答えが出なかった。


「銀八先生?」


呼びかけてみると先生は緩く首を振って視線を手元の日誌に落とす。
その前に先生は柔らかく笑っていた。
あぁ、しまったなと、見なければと思う。
ドキドキしてしまって落ち着かなくなってしまった。




(20120110-20121207)
よくあるフィクション
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