テストも終わり、のんびりとした空気の流れるこの期間が好きだ。
人より教科が多いビルは私よりも勉強量が多く大変なのだろう。
木に凭れ掛かって本を読む横でビルはうとうとしている。
日陰で心地良い風が吹くこの場所は眠くなってしまうのも仕方がない。


本を捲るついでに男の子にしては長めのビルの髪を撫でてみる。
あとんの中間のような声を出してビルが寝返りを打った。
眠そうに瞼を擦る様子が年齢より幼く見える。
子供を寝かしつけるように今度は頭を撫でると手を掴まれた。


「寝ちゃうから」

「寝たら良いじゃない。適当に起こしてあげるわよ」

「んー」


手を掴む力が弱いのも眠いからだろうか。
睡魔と戦っているのかそれとも考え込んでいるのか、宙を見つめている。
本を持っているからビルの手を外す事も出来ず、ただ言葉を待つ。
そんな時間も悪くないなと思うのはやっぱり相手がビルだからだろう。


「眠いけど、もったいない」

「もったいない?」

「せっかく、テスト終わって……一緒に、」


だんだん小声になっていき、掴まれていた手から力が抜けた。
閉じられた瞼を見て、そっとブランケットをビルの体に掛ける。
起こしていないかと顔を覗き込んで静かに息を吐く。
ブランケットを手にした際に閉じてしまった本を開き、ページを捲った。




読み終えた本を閉じ、両手を上げて伸びをする。
思っていたより面白かった物語に満足感を覚えながら腕時計を見た。
そろそろビルを起こした方が良いだろう。
そう思って視線を落とすと青い目が此方を見上げていた。


「起きてたの?」

「少し前に」


腕に頭を乗せて見上げるビルは笑顔を浮かべる。
その頭を撫でようと手を伸ばしかけて引っ込めた。


「声掛けてくれれば良かったのに」

「んー……なんか、楽しそうだったから」


一体どんな顔をしていたのかと気になってしまう。
変な顔をしていなければ良いのだけれど。
なんて考えていたらビルが起き上がり、伸びをする。
その拍子にブランケットが肩から滑り落ちた。
杖を振ってゴブレットを出し、それを煽りながらブランケットを拾う。
一連の動作を眺めていたらゴブレットを置いたビルの手が伸びてきた。


「ごめん、ほったらかして」

「本が読めたから平気よ」

「それはそれで……複雑」


苦笑いを浮かべながら、手は私の頬を撫でている。
本を読みながら時々頭を撫でていた事を寝ていたビルは知らない。
寝ているのを良い事に本に熱中していたと思っている。
ほんの少しの優越感に思わず笑い声を漏らすとビルが拗ねるように頬を軽く摘んだ。


「明日、天気が良かったらピクニックしようよ」

「明日?」

「うん。大広間の食べ物を少し多めに持ってきて、此処で。どう?」


首を傾げるとビルの手が離れていく。
その手の行方を目で追いかけていたら笑い声がした。


「じゃあ、今日は早く寝なきゃ」

「お昼寝しても良いけど」

「もったいない。もう直ぐ夏休みなのに」


夏休み、私は家族と旅行に行く事になっている。
きっと会えるのはダイアゴン横丁に買い物に行く時だ。
家族との時間も大切だけれど長い間会えないのは寂しい。
そう考えているのはお互いに同じだと私は思っている。


「じゃあ明日は、本は部屋に置いてくるわ」

「うん、そうして」


満足そうに笑うビルの手が伸びてきて抱き締められた。
幸せを噛み締めながら、ビルを抱き締め返す。
明日は晴れたら良いなと思うけれど、ビルと一緒なら雨でも良いかななんて思う。




(20180804-20190407)
晴れでも雨でも
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