図書館の机に向かい、課題をやっている後ろ姿。
なるべく音を立てないように近付いて隣の椅子に腰を下ろす。
気が付いたビルが私を見てにっこりと笑う。
私も笑顔を向けるとビルは課題に視線を戻し、手を動かし始めた。


今の笑顔だけで温かくて、少し堪らない気持ちになる。
机に伏せるようにして顔だけビルの方に向けると真剣な顔が見えた。
何回目かなんてもう数える事もしなくなった好きを今日も思う。
同じ魔法使いで良かった、同じ学年で良かった、同じ寮で良かった、なんて事を繰り返し思うのだ。


「課題やらないの?」

「教科書も羊皮紙も鞄ごと寮に置いてきちゃった」

「取ってくる?」

「んー……今日はやめておく」


今日はビルを見ていたいから、と心の中で付け足す。
課題を持ってきてもきっと今と変わらない状況になるだろう。


「じゃあ、終わるまで待ってて」


文字を書く音が止まり顔に影がかかる。
触れるだけのキスをして頭を撫でたビルの顔が離れていく。
突然の出来事に言葉が出て来ずただただ頷くだけ。
キュッと心が掴まれたような少し切ないようなこの気持ちが幸せで仕方がない。




課題が仕上がったのか、ビルが羽ペンを置いた。
インク瓶や教科書を纏めている間に乾かしている途中の羊皮紙を覗き込む。
相変わらずの綺麗な字を眺めていたら頭に手が乗せられた。


「お待たせ。大広間に行こうか」

「うん」


手から羊皮紙が消えて代わりにビルの手が差し出される。
その手を握って図書館を出ると同じように大広間に行く生徒が居た。
ゆっくり歩きながら繋いだ手を少し大袈裟に振ってみる。
ビルと目が合ったのでえへへと笑ってみせた。


「見つかったら怒られるかな」

「多分ね。見つかったら減点されるかな」

「ビルは監督生なのにね」

「うーん……でも、もう少しこのままでいようか」


頷く代わりにビルの頬にキスをする。
そして再び少し大袈裟に繋いだ手を振って歩く。
同じようにゆっくり歩いてくれるビルに自然と口角が上がってしまう。
冷えて肌寒い廊下も気にならないぽかぽかとした気持ち。
大広間までのそんなに長くない道のりで長く長く感じていたい。




(20170207-20180804)
降り積もる
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -