「ああ、悪い。起こしたか?」

「ん……まあ、ね」

「起こすつもりは無かったんだけどな」


そう言いながら大きな手が起きろと言うように頬を軽く摘む。
まだボヤッとする意識をハッキリさせようと上半身を起こす。
すると目の前にグラスが差し出され、受け取ると触れた部分がヒヤリとした。
先程まで毛布に包まれていた上半身も寒さを感じている。
冷たい水を飲むとやっと意識がハッキリして、それに気付いたシリウスがふわりと笑った。


「起きたか?」

「うん。寒いね。今何時……って夜中じゃない」

「そうだな。ほら、早く上に何か着ろ。マフラーと手袋と、あ、帽子も忘れるなよ」


何で?と首を傾げた私にシリウスは再び早くしろと言うだけ。
夜中に起こす気は無いだとか言って人を起こして一体何なんだ。
私はまだこの温かい布団の中に籠もって夢の世界に居たいのに。
そんな文句を心の中で並べながらも言われた通りセーターとコートを着る。
マフラーに手袋、耳当て付きの帽子を被ると待ってましたと言わんばかりに手が伸びて来た。


繋がった手を引かれるまま何となく予想していた通り玄関へと向かう。
外が近付くにつれ寒さが増していき、外気に晒されている顔がどんどん冷えていく。
そういえばシリウスはコートと手袋だけだけど寒くないんだろうか。
チラチラ見える首を見ながらそんな事を考えているとシリウスが玄関の扉を開いた。


「雪!」

「良い感じに積もってるだろ?」


視界に飛び込んで来たのは一面雪景色。
まだ降っていて、朝になる頃にはもっと積もるだろう。
雪なんて見慣れてはいるものの初雪となれば話は別だ。
毎年初雪でハシャいでいたのをシリウスは覚えていたらしい。


「よし!雪だるま作るぞ!」

「大きいやつにしよう」

「当たり前だ。お前頭作れよ」

「オッケー」


寒さなんてすっかり忘れて雪玉を作り、それを転がす。
シリウスのより小さくしなければいけない。
チラチラと見ながら転がしていたのに結局大きくなってしまった。
魔法でシリウスが雪玉を重ね、私が石を使って顔を作り最後にバケツを被せる。
完成してみると雪だるまとシリウスの身長が殆ど変わらなかった。


雪だるまが見える窓際に座り、温かいココアの入ったマグを両手で包み込む。
シリウスと変わらない大きさの雪だるまは家の中から見ても抜群の存在感だった。


「朝まで残ってるかな」

「残ってるだろ。下の方は埋まるかもな」

「それは残念だけど、残るならいっか。シリウス二号」

「何だそれ」

「雪だるまの名前。愛着湧くでしょ?」

「お前は、相変わらず偶に変な事言うよな」


そう言いながら呆れたように笑うシリウスの手が頬に触れる。
部屋に入る前は冷たかった手が今はすっかり温かい。
距離が縮まって唇が触れる寸前に、可愛いヤツ、と呟かれた言葉がココアよりも何よりも甘いような気がした。




(20131224-20140521)
ココアより甘い君
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