何度かお鍋の中を掻き回して味見をしてみる。
何かが違うのだという事は解るのにその何かの正体が解らない。
美味しいとは思うけど、目指した味とはやっぱり違う。
モリーさんの作る料理に近付けようと頑張っても何かが足りないのはやっぱり経験の差だろうか。


「まあ、及第点ってとこかな」


何かを入れて台無しになるのは嫌だし、これで完成にしよう。
自分に納得させるように呟いてお皿にシチューをよそい、杖を振った。
後はテーブルまで勝手に運んでくれる。
焼き上がったヨークシャープディングにも杖を振って盛り付けはあっという間に終わった。
マグルは魔法無しで手作業だというから、時間が掛かるだろうな。
それがまた良いんだと力説していたアーサーさんの顔が浮かぶ。
まるで子供のように顔を輝かせるところは息子達にも受け継がれている気がする。
特にビルがよく話してくれる悪戯大好きな双子には特に。


いきなり休みが取れたから、と現れたビル。
休みが取れたのならわざわざエジプトから来なくても良いのに。
なんて言ったら、笑顔で会いたかったからと言われてしまい、返す言葉も無かった。
確かに恋人なのだから私だって会いたいと思っていたし、会えて嬉しい。
でも一日しか無い休みなのにエジプトとイギリスの往復だなんて疲れてしまうんじゃないだろうか。
せっかくの休みなのだから体を休めて欲しいという気持ちもまた嘘じゃ無かった。


「ビル」


本を読んでいた筈のビルに声を掛けても返事が無い。
ビルの座るソファーを回り込んでみると、瞼が閉じられていた。
読みかけの本はお腹の上に開かれたまま乗せられている。
本を退かしてブランケットを掛けるとそのまま床に座り込んだ。
ソファーの少しだけ空いたところに頭を乗せると無防備な寝顔が目の前にくる。
久しぶりに会って、そして今久しぶりにまじまじと顔を見る事が出来た。


「料理、出来たんだけどな」


ポツリ、と呟いてみてもビルの瞼が持ち上がる気配は無い。
投げ出されていた手に自分の手を重ねると触れたところからじんわりと温かくなってくる。
いつもの体温だなぁ、なんて思いながらそっとビルの唇に自分の唇で触れた。
久しぶりに会ったというのに恋人を放って眠ってしまうなんて、酷い仕打ち。
それでも私の顔の筋肉はそれが当たり前だというように笑顔を作る。


「甘いなぁ」


本当は酷いなんて思っていないし、こんな風にビルの寝顔を眺めているのも幸せで堪らない。
ソファーだから横に寝転がれないのが不満ではあるけれど、まあ、目の前に大好きな人が居るという事実だけで充分だ。




(20131224-20140521)
Bitter sweet sweet
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