扉をノックしてみても返事はない。
名前の事だから、どうせまた集中しているんだろう。
中に入ると積み上がった本の向こうに名前が居た。
この積まれている本は読み終えたのか、これから読むのか。
どちらにしても相変わらずだ。


近付いて肩に手を置くと名前の体が面白い程に跳ねる。
そんなに驚くのかと思ったら笑いがこみ上げてきた。


「ドラコ……驚いた」

「ああ。ノックはしたんだぞ」


笑いを堪えながら返事をすると名前が笑わなくてもと呟く。
何とか笑いを堪えていると名前が本の山を半分抱えて立ち上がった。
棚に戻し始めたのを見て腕の中から本を取り上げる。


「あら、手伝ってくれるの?」

「重いだろう」

「これ位なら平気よ。学生時代に持ち歩いてた教科書に比べればね」

「ああ……そうだな」


教科書だけでなく、図書館で借りた本も持ち歩いていた筈。
立場上手伝いを言い出す事はなかったが、大変そうだとは思っていた。
本を片付け終えると名前はもう半分を持って出口へ向かう。
追い掛けて再び本を取り上げ、先を歩く。


「ドラコ、私も持つわ。重いでしょう?」

「……名前」

「ん?」

「僕は成人してるんだぞ。子供じゃない」

「ええ、そうね」


首を傾げる名前に溜息を吐きたくなる。
何とか両親を説得し、何度もデートに誘い、やっと恋人になれたというのに。
名前の僕への態度は学生時代と変わらず、不満を感じてしまう。
ウィーズリーの長男の話をする時は嬉しそうにしているのがまた面白くない。
きっぱり振られている上にあちらは結婚しているからそういう間柄ではないとしても、だ。


「随分集中していたな」

「あ、ええ。魔法薬と薬草関連の本が充実してたから、つい。さすがマルフォイ家よね」


嬉しそうに話す名前を見て、家に誘って良かったと思う。
昔本を貸した事があったが、あの時は招くなんて事は絶対に出来なかった。
新しく仕入れたらしい知識を話す声を聞きながら、部屋へと戻る。
テーブルに本を置き、入り口に戻り名前の手を引いてソファーへと座らせた。
予め用意しておいた紅茶をカップに注ぎ名前の前へ置く。


「有難う」


お礼を言う名前の隣に座り、自分のカップへと注いだ紅茶を飲む。
やはり、名前が淹れた方が美味しいなと思う。
しかし名前は美味しいと言いながら飲んでくれる。
名前はドラゴン好きのウィーズリーが淹れる紅茶が一番好きらしいが。
何においても存在感のあるウィーズリーにイライラが募る。
もしも名前がグリフィンドールじゃなくてスリザリンだったなら。
一瞬そんな事を考えるが馬鹿馬鹿しいと直ぐ様捨て去る。
せっかく名前と一緒に居るのだからウィーズリーの事なんて考えている場合ではない。


「カップもきっと良い物よね。緊張しちゃう」

「割れても直せば良いだろう」

「……魔法使いならではの発想だわ」


思わず首を傾げると名前は笑い声を上げた。
そしてスコーンを手に取りクロテッドクリームを塗り始める。
それを頬張って美味しいと幸せそうに笑う。
幸せそうな顔を見ているだけで幸せを感じる。
先程まで抱いていたウィーズリーへの感情なんてどうでも良くなる程に。
空になったカップに紅茶を注いでいると名前が二つ目のスコーンを手に取った。


「私がドラコの家でティータイムだなんて、不思議な気分」

「不思議?」

「前に来た時は、ほら、そんな場合じゃなかったでしょう?」


言われて何故気が付かなかったのだろうと自分を殴りたくなる。
名前が家に来るのは今日が初めてではない。
忘れていたわけではないけれど、そこに思い至らなかった。
ただ本が好きな名前にあの部屋を見せたいと思っただけなのに。
とにかく謝らなければと口を開いたらスコーンが放り込まれた。
驚きながらも咀嚼しながら名前を見ると悪戯が成功したような子供みたいに笑っている。
その顔で何故かあの双子を思い出してしまい、慌てて打ち消す。


「ドラコって、顔に出やすいわよね」

「……そうか?」

「そうよ」


そんなに顔に出ていたかと自分の頬を触っていたら名前が笑った。
手にはまだスコーンを持っている。


「謝らなくて良いのよ。あれはドラコが悪いんじゃないし、寧ろ助けてくれたじゃない」

「助けたと言っても、逃がしただけだろう」

「あら、だけって事はないわ」


名前の手からスコーンを取り上げてジャムをたっぷり塗った。
それを名前の口元に持って行くと僅かに狼狽える。
しかし直ぐに口を開け、スコーンをかじった。
可愛いと素直にそう思う。
同時に、そんな反応をさせているのが自分だと思うと喜びが湧き上がる。


「あんな事は、もうごめんだ」

「そうね。もしも、またあんな事があったらドラコを守れるように備えておかなくちゃ」

「……何でお前はそうなんだ」


守ってやると言いたかったのに先を越されてしまう。
この先もずっと先を歩いて行くような気がしてならない。
置いて行かれないようにする事にいつも必死だ。
しかしそんな名前を好きになったのだから仕方がない。
ずっと名前を追いかけていくのも悪くないと、そう思う。




(20180629)
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