職員室から談話室へと向かっているとフレッドとジョージが隠れているのを見つけた。
何をしているんだろうと見ていたら歩いていたミセスノリスがネズミを追いかけて走っていくのが見える。
それを見た双子が嬉しそうにハイタッチをするのに首を傾げていたらミセスノリスが大きな蛇に追いかけられて反対側へ走っていった。
そして双子がお腹を抱えて笑い出したのであのネズミと蛇は双子が仕組んだ物なのだろう。
「お、名前じゃないか。今の見てたか?」
「見てたわ。ちょっと可哀想じゃない?」
「そうかな。あいつはフィルチと仲良しなんだ」
「俺達が何度捕まったか。これくらい可愛い悪戯じゃないか」
蛇に襲われた事のあるミセスノリスからしたらとても可愛いなんて言えないだろう。
走り去った方からミセスノリスらしき悲鳴が聞こえてまた双子が笑った。
一頻り笑って満足したらしく、並んで歩きながら先程のネズミの仕掛けを聞く。
相変わらず悪戯に関しては一流の二人に感心してしまう。
授業も同じようにやってくれれば良いのにと言いそうな人の顔が何人か浮かんだ。
「そうそう、名前に渡してくれって頼まれたんだった」
「誰から?」
「ロンと同学年の……何て名前だったかな。フレッド覚えてるか?」
「いや、全く。グリフィンドールじゃあない」
「とにかくラブレターだ」
ほら、と差し出されたそれを受け取ると、確かに私の名前が書いてある。
裏返してみても差出人の名前は書かれていなかった。
それにしても、好きな相手からラブレターを渡されるなんて悲しすぎる。
溜息を吐きたいのを堪えながらポケットにラブレターをしまう。
「読まないのか?」
「読むわよ、後で」
「ふーん」
双子がラブレターの入ったポケットをジッと見つめている。
どうせまたからかうつもりなのだろう。
今はラブレターを読む気分なんかじゃないのだ。
せめてもの反撃に二人に課題の話をすると途端に話題が変わり、ホッと息を吐く。
翌日、いつものように談話室で課題をやっていたら私を挟むようにして双子が座った。
向かい側に座っていた友人がそれを見て器用に片眉を上げる。
一瞬何か言いたげな顔をしたのに、直ぐに手元に視線を戻してしまう。
「読んだか?」
「ええ、読んだわ」
昨日のラブレターなら、夜に部屋で読んだ。
最後まで名前が書いていなかったので未だに差出人は不明。
ただただ差出人が私をどう思っているかが書き連ねてあるだけだった。
内容には触れず名前がなかった事だけを双子に伝える。
双子は興味があるんだかないんだかよくわからない声を上げた。
「名前、思い出さないの?」
「それがぜーんぜん」
「俺達も考えたさ。一ミリ位は努力したな、うん」
「ああ。お陰で課題をやる時間はなかったな、相棒」
「全くだ」
うんうんと頷き合う二人は仕方がないと言いたげな顔をしている。
この双子が真面目に課題をやっていた事があっただろうか。
それに、名前を考えたというのはきっと言葉にしてみただけだろう。
呼ばれて立ち上がる二人を見つめながら羽根ペンを握り締めた。
額に痛みを感じて目を開けると周りは真っ暗。
課題をやりながら眠ってしまったらしい。
机にぶつけた額を擦りながら火が消えた暖炉を見て溜息を吐いた。
起こしてくれても良いのにと友人への文句を心の中で呟き広げていた羊皮紙を片付ける。
その時、談話室の扉が開いて誰かが入ってきた。
「あれ、名前?」
「……ジョージ?」
「正解。よく解ったな」
月の光に照らされたジョージがニヤリと笑うのが見える。
机の上にあった蝋燭に火を灯すとジョージが隣に座った。
「フレッド見てないか?」
「見てないわ」
「じゃあまだ戻ってないのか」
「また城内探検でもしてフィルチに見つかったの?」
「そうそう。別れて逃げたんだけど……捕まったかな」
うーんと唸りながらジョージの手が私の羽根ペンに伸びる。
手持ち無沙汰なのか、羽根の部分を撫でながらぶつぶつと色々な名称を呟く。
それはきっと私の知らないあちこちの抜け道の目印になる物なのだろう。
開きっぱなしだった教科書を閉じて羊皮紙とインク瓶と一緒に鞄にしまうと羽根ペンが差し出される。
受け取ろうと手を伸ばしたらその手を掴まれた。
「何?」
「この間のラブレター、返事した?」
「相手が解らないから、してないわ」
「そうだったな。じゃあ……名前書いてあったら?」
「しない。私、好きな人居るし」
掴まれている手を振り解いて羽根ペンを鞄にしまう。
どうしてそんなにラブレターに拘るのか、全く解らない。
そのラブレターを私に渡したのはジョージだというのに。
それとも渡したからこそ気にしているんだろうか。
「名前の好きな人って、俺知ってる?」
「……知ってる」
「俺が知ってるのか……まさかフレッド?」
何言ってるんだと寸前まで出掛かった言葉を飲み込む。
ジョージの服を掴み引き寄せて顔を近付ける。
もう少しでキスが出来そうな距離で青い目を見た。
珍しく驚いて固まっているジョージに腹が立つのに、ドキドキしてしまう自分も居る。
「名前?」
「私が好きなのはフレッドじゃない。私に、ラブレター渡したのはジョージでしょ」
「え?」
手を離して鞄を掴み、階段へと歩く。
こんな事言うつもりじゃなかったのに、と後悔する。
課題は終わっていないけれどもうこのまま部屋で寝てしまおう。
寝て起きたらきっと感情も落ち着いてジョージに忘れてと言える筈だ。
「名前待って」
階段の一段目に足を乗せた瞬間、腕を掴まれ呼び止められる。
振り向かないまま足を止め、鞄を持つ手に力が入った。
「もしかして、名前は……俺が好きなの?」
「……そう、だとしたら?」
「嬉しい」
思わず振り向くとジョージと目が合う。
もしかしていつもの様にからかっているんだろうか。
表情から探ろうとしても答えは得られそうにない。
「冗談」
「だと思うか?」
「……だって、ジョージだし」
「信用ないな」
掴まれたままだった腕を引かれ、後ろに立つジョージに凭れ掛かってしまう。
頭の上から仕方ないかという言葉が降ってくる。
「俺としては、デートに誘いたいけど。両思いみたいだし?」
見上げるとジョージは笑顔を浮かべていた。
しかしそれはいつもの様な悪戯な物ではない。
心臓が掴まれたように、苦しくなる。
突然カッと顔に熱が集まるのを感じて、それを見たジョージが満足そうに笑った。
(20180322)
きっと君より気にしてる