隠れ穴に行かないかと誘われたのは一週間前だった。
夏休みで弟達も居るし今年はクィディッチ・ワールドカップがあるんだとビルが言ったのは記憶に新しい。
クィディッチ・ワールドカップについては教えて貰って何となく理解出来たと思う。
しかし問題はそこではなくてビルの両親に会うという事だった。
まだ生活には慣れていないし英語だって殆ど上達していない。
それなのにビルの両親だけでなく兄弟達もだなんて考えただけで不安になる。
気付けばこの一週間僅かながらに来た仕事も思うように進まなかった。


「名前、そんなに緊張しなくて良いよ」

「緊張するよ。だって私英語出来ないんだよ」

「毎日勉強してたから大丈夫」


宥めるようにビルの唇がこめかみに触れたけれどそんな余裕が無い。
しかし目の前にはもう隠れ穴があってビルが扉に手を掛けている。
英語は一応ビルが魔法をかけてくれているから切れない限り大丈夫だろう。
あとはビルの両親にどんな反応をされるかだけれど今心配してもどうしようもない。
なるようにしかならないのだと顔を上げ足を踏み出した。


「ビル、お帰りなさい。そちらがこの間話していた名前?」

「あ、名前・名字です。初めまして」


ついお辞儀をしてしまいそうになり、慌てて手を差し出す。
イギリスに来てからといって長年の習慣は簡単には抜けない。
そして心配だった会話はとりあえず大丈夫なようだ。


「初めまして、モリー・ウィーズリーよ。ゆっくりしていってちょうだい」

「よろしくお願いします」

「名前、こっちだよ」


手を引かれて慌ててモリーさんを振り返るともう既に此方に背中が向けられている。
きっと食事を作るのに忙しいのだろう。
手を引かれるままに進んだ先に居たのは女の子と男の子だった。
女の子は赤毛にモリーさんと同じ瞳の色をしている。
男の子はビルと同じ青色の瞳だ。


「名前、妹のジニーとロンだ」

「こんにちは。名前です」

「ジニーって呼んで。ビルのガールフレンドよね?」

「そうだよ。仲良くしてね」

「ビルに言われなくてもそうするわ。ハーマイオニーが来るまで私とママしか居ないんだと思ってたもの」


よろしくね、と笑うジニーはとても可愛い。
会話に出て来た名前はよく解らないけれど、とりあえず仲良くなれそうで良かった。
ジッと此方を見ているロンによろしくねと声を掛けてみる。


「……うん。僕、ハリーに手紙書かなきゃいけないから」


それだけ言うとロンは階段を上って行ってしまった。
また出てきた知らない名前に首を傾げているとそれにジニーが気付いたらしい。
ハーマイオニーもハリーもロンの友達の名前だと教えてくれた。
外国の人の名前はなかなか難しい。


ジニーの読んでいる本を見せて貰っていたら突然モリーさんの大声が家中に響き渡る。
何事かと驚いている私の横でビルとジニーは全く気にしていない様子だった。


「フレッドとジョージ……双子なんだけど、悪戯好きで夏休みに入ってからは毎日あんな調子なのよ」

「毎日?」

「名前もその内慣れるわ」


何てこと無いように言うジニーに懐かしいと呟くビル。
毎日の事なのか、と驚いていると階段からそっくりな顔の二人が降りてきた。
この二人がフレッドとジョージなのだろう。
どっちがフレッドでどっちがジョージなのかは解らないけれど。


「おいジョージ、見慣れないレディーが居るぜ」

「そうだな。お名前を伺っても?」


芝居がかったように話す二人に戸惑いながら名乗る。
ジョージと呼ばれた方の子がビルのガールフレンドか、と直ぐに呟く。
もしかしてビルは家族全員に私の事を話したのだろうか。
突然フレッドと思われる子に手を取られる。
戸惑っている間に手のひらに何かを置かれた。


「これは俺達が作った杖だ。後でパーシーの部屋にでも持って行ってくれ」

「パーシー?」

「我らの一つ上のお兄様さ」


ビルから聞いた兄弟の順番を思い出そうとするとまたモリーさんの声が響く。
双子はその声に慌てたようにキッチンに消えていった。


「それ、あの二人が作った騙し杖よ」

「騙し杖?」

「偽物の杖なの。鳴き声がして動物に変わるのよ」

「母さんが怒ってるのもきっと騙し杖のせいだよ」


話を聞いた限りでは面白そうだなんて思いながら騙し杖を眺める。
ビルの杖しか見た事が無いけれど、本物そっくりだ。
これはどんな動物になるのだろう。
フレッドとジョージに使用方法を聞いておけば良かった。


「あと会ってないのは父さんとチャーリーか」

「チャーリーはまだ帰って来てないわ」

「チャーリーって、ルーマニアに居る弟?」

「そうだよ。ドラゴンが大好きなんだ」


ドラゴンと声に出してもいまいちピンと来ないのは実物を見た事が無いからだろう。
魔法界の事はまだまだ知らない事の方が多い。
チャーリーが帰って来たらドラゴンについて聞いてみよう。


「覚えられた?」

「多分……でも一応メモしておかなくちゃ」

「大丈夫よ。何日かしたら覚えられるわ」


特にフレッドとジョージはね、と悪戯に笑うジニーの表情はビルそっくりだった。
そして邪魔になるからと言ってジニーは去っていく。
末っ子はしっかりすると言うけれどあれは本当らしい。


「少し疲れた?」

「ううん、大丈夫。でも、とっても賑やかなのね」

「ジニー以外男だからね」

「でも、楽しいお家ね」


でしょ、と笑ったビルの顔は照れ臭そうで、でも嬉しそうだった。




(20150712)
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