悪戯が成功して良い気分のままエバンズと約束があるというジェームズと別れ、談話室へと戻る。
最近ちょっと話をしてくれるようになったんだと喜ぶ親友の姿は嬉しい反面悪戯の機会が減って物足りなくも思う。
小さな悪戯を繰り返しながら、それでも以前に比べて確実に回数は減っている。
親友が長年の片想いを実らせる事が出来るのならばそれはそれで良いじゃないか。


半ば自分に言い聞かせるようにそんな事を考えていた時だった。
階段の一段目に座っている生徒を発見する。
こんな所に座り込んで何をしているんだと近付くとそれは名前・名字だった。
目立つ方ではなく、同じ寮だが直接の会話は勿論余り話しているのを聞いた事は無い。
近付いても何の反応も無く規則正しい寝息が聞こえてくる。
どうしてこんな所で寝ているのか解らないがとりあえず起こした方が良いだろう。


「おい、名字」


声を掛けながら軽く肩を叩いていると目を覚ました名字がジッと此方を見る。
寝惚けているらしく、何回か瞬きをしながら首を傾げた。


「……ブラック?」

「風邪引くぞ」


手を差し出すと名字は不思議そうにそれを眺める。
もしかしてまだ寝惚けているのか、と思っていたら不意に名字が立ち上がった。
差し出した手は掴まれる事もなくそのまま。


「起こしてくれて有難う」

「ああ。何でこんな所で寝てたんだ?」

「昨夜、眠れなかったから」


階段で寝ていた理由にはならないが、それ以上話すつもりは無いらしい。
図書館へ行くという名字と別れて階段を上る。
変な奴、と呟いてみても誰からも言葉は返って来なかった。




本を読んでいる名字を見掛けたのはそれから一週間後。
殆どの生徒がホグズミードへ行く中談話室の隅で本を読んでいる。
行かないのか、なんて思っていたらジェームズに急かされた。


ゾンコで買い物をして三本の箒でバタービールを飲む。
そしてハニーデュークスに寄り、目に付いた物を買った。
そして親友達と別れて一足先にホグワーツへと戻る。
談話室に入ると案の定名字はまだそこに居た。
隅で一人黙々と本を読んでいたのだろう。


「座るぞ」

「……どうぞ」


チラリと俺を見たかと思えば一言呟いて読書に戻る。
何を読んでいるのかとタイトルを見てみるが知らない物だ。
話しかけるのは読み終わってからにするか。
買ってきたゾンコの物を確認しようと紙袋を開ける。


「何か用?」

「……ああ、いや、大した用じゃない。それ読み終わってからで良い」

「何回も読んでるから大丈夫」


淡々と喋ると前も思ったが今日もそれは変わらず。
元々そういう話し方なのかもしれない。
そういえば表情が変わったのを見た事が無い気がする。
そんなに接点が多い訳じゃ無いから当たり前か。


「ホグズミード行かなかったんだな」

「人が多いの苦手なの」

「ふーん……クィディッチは?」

「気が向いたら、一番後ろで」


ああ、それは何となくイメージが出来る。
一番後ろで見て試合がシーカーがスニッチを掴んだ瞬間に帰りそうだ。
勝手なイメージだけど、そう間違ってはいない気がする。
名字はこれを聞いたらどう思うか。


「ブラック」

「あーそれ、辞めてくれ」

「え?」

「ブラックって呼ばれるの好きじゃねえんだよ。シリウスで良い」

「……解った。今日は帰ってくるの早いのね」


視線は本に向けたまま名字が話す。
何故早いと思ったのかと尋ねれば有名だからと返ってきた。
そう言えばいつもはギリギリまでホグズミードに居る。
こんなに早く帰ってくるのは珍しいかもしれない。
あの三人は今日もギリギリまで居るんだろう。


「ああ、そうだ。これやるよ」

「……お菓子?」

「好きなもん知らねえから適当に買ってきたけど」


キャラメル、クッキー、キャンディーと机に乗せる。
リーマスがいつも食べている物だから味は確かだ。
名字がキャラメルを摘んでパッケージを見つめる。


「これ、貰って良い?」

「勿論。それだけじゃなくて全部やるよ」


名字の目が一つ一つのパッケージを確認していく。
一番最初にキャラメルを持ったという事は、好きなのかもしれない。


「有難う、シリウス」


初めて、名字が笑うところを見た。
どうして今俺はドキッとしたのだろう。
答えは解らないまま名字から視線を逸らす。
袋を開ける音にチラリと盗み見ればキャラメルを頬張る瞬間だった。




(20150626)
キャラメル一つ
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