「ビル、誕生日だろ?おめでとう」
起きて最初にルームメイトに掛けられた言葉にカレンダーを見る。
ハッキリしていない頭で日付を確認して納得した。
忘れていた訳ではないけれど改めて自覚した、と言うか。
ルームメイトにお礼の言葉を返して誕生日プレゼントの山に目を向ける。
両親からは時計、弟達からはよく解らない本、妹からは可愛らしいカード。
友人達からのプレゼントはカードとお菓子の組み合わせが殆ど。
有難くプレゼントをしまって部屋を出ようとしたら呼び止められた。
「名前が呼んでたぞ」
「名前が?」
「うん。何処だったかな……とりあえず、談話室行ってみろよ」
肝心の場所が解らないまま部屋を出て談話室に降りる。
しかし名前の姿はなく朝食から帰った生徒が居るだけだった。
そのうち出会えるだろうと談話室を出て大広間へと向かう。
擦れ違う生徒におめでとうを言われながら早足で進む。
朝食を食べ損ねたらあのお菓子を食べる事になってしまう。
今日はなんだかゆっくりしてしまった。
「ビル!」
階段を幾つか降りたところで名前を呼ばれ、声の方を向く。
駆け寄ってくるのは弟のチャーリーだった。
今から練習に行くのか、肩に箒を担いでいる。
「はいこれ」
「何?」
「良いから。じゃあ、ちゃんと渡したからな」
それだけ言ってチャーリーは階段を駆け下りていく。
渡されたのは折り畳まれている羊皮紙で、見覚えのある字でビルへと書いてあった。
開いて書かれている文字を見てくるりと振り返り上へと戻る。
目当ての廊下に辿り着くと名前が笑顔で立っていた。
近くまで行くと見慣れない扉が目に入る。
こんな扉は今までに見た事がなかった。
そもそもこの廊下には扉は一枚もなかった筈。
「良かった。チャーリーに会えたのね」
「うん。名前からの手紙を貰った」
「梟にお願いしようとも思ったんだけど、チャーリーに頼んじゃった」
肩を竦めて名前が苦笑いを浮かべる。
思わず伸びた手で触れるとその手を掴まれ、名前が扉を開けた。
そして手を引かれるまま初めて入る部屋へ足を踏み入れる。
中は広く、本が山積みにされているかと思えばチェスセットが置いてあったり、食事が置かれていたり。
「この部屋不思議な部屋なの。欲しい物が何でも出て来るの」
「そうなの?」
「食べ物は無理だけどね」
「じゃあ、名前が用意したんだ」
「うん。お腹空いてるでしょ?」
椅子に座り、朝食のトーストに手を伸ばす。
その間に名前がゴブレットにオレンジジュースを注いだ。
マーマレードをたっぷり塗ってかじる。
「あのね、あ、食べながら聞いて」
「ん?」
「今日でビルは成人でしょ?特別なプレゼントをしたいって思ったんだけど、なかなか思いつかなくて。時計はご両親から貰うだろうし」
「うん」
「それで、今日日曜日だから、一日ビルの好きな物をと思ってこの部屋に呼んだんだけど」
そこまで言って名前は言葉を切り自分を落ち着かせるようにオレンジジュースを飲み干した。
誕生日だからと何か特別な事を望んだ訳じゃない。
休暇中ならともかく、今はホグワーツに居る。
勿論パーティーはないしケーキもない。
それを特別悲しいと思った事はなかったし、大半の生徒が同じ境遇だ。
「名前も一緒?」
「え?」
「名前も一緒に過ごす?」
「勿論。ビルが、良いなら」
そう言って笑った名前に自分も笑顔を返す。
誕生日だからと特別な事は望まない。
でも、名前がくれたこの時間は特別な物だった。
「ビル、誕生日おめでとう」
今日一日、名前とどういう風に過ごそうか。
(20141129)
19871129