魔法史の授業は毎回気合いを入れても直ぐに瞼が重くなってしまう。
自分ではしっかり書いたつもりの文字も見返すとただの暗号だ。
だからいつもビルのノートを写していた。
今日も頼み込んでノートを見せて貰っている。
「名前、そろそろ寝るのは辞めたらどう?」
「私だってそうしたいわ。でも気付いたら授業の記憶が無いのよ」
「確かに、名前はいつも気持ちよさそうに寝てるからね」
からかうような口調にビルを睨むと肩を竦めた。
そして読みかけの教科書に視線を落とす。
私もビルから手元へと視線を戻し、再び書き進めていく。
魔法史自体は嫌いじゃなく、寧ろ好きだから成績は悪くない。
ただ授業となるとビンズ先生の声によって眠くなってしまう。
書き終えてノートのお礼を言おうと顔を上げる。
けれどビルは教科書を真剣に読んでいるから口を開けなくなってしまった。
持ち上げたノートをそっと戻しビルに倣って教科書に手を伸ばす。
パラパラと捲ってみるけれど教科書はそんなに面白くなくて結局閉じる。
ビルは一年生の頃からこうしてよく教科書を読んでいた。
予習だと言うから偶に教科書を一緒に読んだりもしたけれど私には向かないらしい。
基本的に勉強が好きな訳ではないから元々の勉強に対する姿勢の違いなのだろう。
羊皮紙の切れ端を引っ張り出して落書きを始める。
「終わったの?」
「終わったわ、ノート有難う」
「どう致しまして」
差し出したノートを受け取るとビルは読んでいた教科書と一緒に鞄にしまう。
その行動にもしかしてと時計を見ると夕食の時間だった。
大広間へ向かう生徒の中を歩きながらビルが魔法史について話すのを聞く。
ビンズ先生と同じ内容を話していてもビルだと眠くならない。
いつもビルが授業をしてくれたらなと密かに思っていたりする。
「質問は?」
「大丈夫、いつも通り解りやすいわ」
「相変わらず魔法史は理解が早いね」
「その言い方だと他が駄目みたいじゃない」
「苦手な教科もあるだろ?」
そうだけど、と頷くとビルがクスクスと笑った。
ビルは器用で何でもそつなくこなしてしまう。
それは一年生の頃からそうだった。
そんなビルの器用さを羨ましいと思わなくなったのはいつからだったか。
「きっとビルは12ふくろうね」
「取れたら良いけど」
「ビルはきっと取れるわよ。一年生の時からの仲である私が保証するわ」
ポンと高い位置にあるビルの肩に手を乗せる。
ね、と念押しするといつもなら笑顔で頷くのに今日は違う。
何か考えている時の表情を浮かべ立ち止まってしまった。
私も立ち止まりビルを振り返る。
大広間に向かう生徒が何人か不思議そうな顔で私達を見ていく。
「ビル、どうしたの?」
「……もし、12ふくろう取れたら一緒にホグズミード行かない?」
「いつも一緒に行ってるじゃない」
「でも手は繋がない。そうだろ?」
ビルの言葉が上手く理解出来ないまま素通りする。
初めてのホグズミードはビルと一緒に行った。
この間もその前の時も、大体いつもホグズミードはビルと一緒。
だけどビルの言った通り手を繋いだ事は一度も無い。
「それって、そういう事?」
「そういう事」
「そっか」
「考えておいて」
ほら行くよ、と自然に手を握られて引かれるままに歩き出す。
いつも見ていたビルの手はこんなに大きかっただろうか。
(20141007)
Prelude