「こんにちは、名前先輩」
「あら、ビル。こんにちは」
「勉強教えて下さい」
「良いわよ。どうぞ」
隣を勧めるとビルは素直に頷いて座った。
そして教科書を取り出して解らない部分を示される。
教科書を読んでから説明を始めると頷きながら羽根ペンを動かす。
ビルはこうしていつも勉強を教わりに来る。
頭が良いから必要ないんじゃ、と思う。
でも、頼られるのは嫌じゃないのだ。
「有難う御座います。先輩の説明は解りやすいです」
「そう、良かったわ」
手を伸ばしてグリグリとビルの頭を撫でる。
こうして座っていなければ頭も撫でられない。
一つ下だというのに既に私よりも頭一つ分背が高い。
性別の違いがあるとしてもビルは高い方だ。
父親が背が高いと言うからきっと父親似なのだろう。
「そういえば、下級生の子達が貴方の話をしてたわ」
「え?」
「相変わらずモテるわね」
頬をつつくと不満そうな拗ねた表情を浮かべる。
反応が可愛くてつい意地悪をしたくなってしまう。
本人はそれが不服らしいけれど。
ビルは優しいし顔も整っていてモテるのだ。
事実なのだけどその話は余り好きではないらしい。
「そんな事より、先輩はいつ僕の誘いを受けてくれるんですか?」
「何のお誘いだったかしら?」
「先輩」
「ごめんなさい、そんなに怒らないで。貴方は笑顔が素敵よ」
ビルの両頬を摘んで上に引き上げてみても笑ってはくれなかった。
何度もホグズミードに誘われているのはちゃんと覚えている。
誘われる度に嫌で断っている訳じゃ無い。
偶然友人と約束している時に限って誘われる。
私に約束が無い時はビルに約束があったりとタイミングが悪いのだ。
「次は来月だったかしら」
「僕は予定無いですよ」
「じゃあ、一緒に行きましょうか」
「え?」
「嫌なの?」
とんでもないとビルは思い切り首を横に振る。
じゃあ約束、と言うとビルは元気に頷く。
可愛くて頭を撫でようと伸ばした手が掴まれた。
手首から肌の上を滑りギュッと手を握られる。
「ねえ、その先輩って辞めない?」
「え?」
「呼び方が先輩だといつまでも先輩のままじゃない」
拗ねたようにそう言うとビルは困った表情を浮かべた。
しかし何かに気付いたらしく、驚いたように顔を上げる。
私の言いたい事をちゃんと理解しただろうか。
「名前、約束ですよ」
「勿論。ビルこそ、忘れちゃ嫌よ」
手を引き抜いて両手で一回り大きな手を包む。
ね?と首を傾けた時、ビルがはにかみながら笑ったのがとても可愛かった。
(20140918)
一段階先へ