ラッピングを施した物を目の前に卿は首を傾げた。
そんな姿も様になるのだから狡いと思う。


「これは何だ?」

「卿の為に、卿の事を考えて一生懸命選んだんですよ!今すぐ開けて下さい。さあオープン!」


呆れた表情を此方に向けて卿は綺麗な手を伸ばして包みを解いていく。
思いの外マトモだったと言いたげな表情を浮かべてラベルの文字に目を走らせる。
お金持ちじゃない私にしてはかなり奮発したのだ。


「ほう…お前にしてはなかなか良い選択ではないか」

「気に入って貰えましたか!」

「飲んでやろう」


ニヤリと笑った卿の言葉に慌ててワイングラスを取りに走る。
大慌てで戻ると既に卿の綺麗な手はグラスを傾けていた。
なんというか、酷いんじゃないんだろうか。
これは心の中で思うだけで決して言葉にはしない。


「あの、如何ですか?」

「悪くない」


安堵と嬉しさに緩む頬をそのままに卿を眺めていたら怪訝な顔をされた。
その表情からはまだ何か用かという言葉が読み取れる。


「まだ何かあるのか?変な企みはするなよ?」

「別に何も企んでないですよ!」

「どうだろうな」


そう言って卿はボトルを傾けてグラスを満たす。
結構なピッチで飲んでいるという事はなかなか気に入って頂けたらしい。


「そうじゃなくてですね、今日はお誕生日でしょう?」

「…は?」

「は?て、12月31日ですよね、卿の誕生日」

「ああ…そうか」


何か一人で納得したらしい卿は杖を振る。
私の手の中にあったワイングラスが消えた。
そのワイングラスは卿の手の中でワインを注がれている。
ぼんやりと眺めていたら何をしている、と言われた。


「あの、卿?」

「分けてやろう。こんな事でもなければお前には手の届かぬ代物だ」


卿の言葉はいつもの事なので気にする事ではない。
驚きなのは卿がワインを分けてくれた事だ。
差し出されたグラスを受け取って一口含む。


「どうだ?」

「なんか、良く解らない味がします」

「お前にはまだ早いか」


ニヤリと笑って卿は再びワインを注ぐ。
ちょっとピッチ早すぎるんじゃないですかね。
もうボトルの半分以上空っぽなんですけど。


「卿、飲むの早くないですか?」

「お前が遅いのだろう?要らぬのなら飲んでやるぞ」

「い、要りますー!ちょっと辞めて下さい飲みますってば!」


グラスを奪おうとする卿から何とか死守する。
機嫌が良さそうな卿は悪戯に笑って足を組み替えた。
フカフカなソファーに座る卿の隣に腰を下ろす。


「お誕生日おめでとう御座います」

「別にめでたくはないだろう」

「え?いや、でもやっぱりおめでたいと思いますけど」

「今私は機嫌が良い。お前がどうしても祝いたいと言うなら祝われてやろう」


何処までも上から目線な卿だけど、それでも素敵だと思ってしまう。
それに、赤い瞳が楽しそうに細められるのを見るのは好きなのだ。
グラスをテーブルに置いて両手を卿に向かって伸ばす。
卿の肩に手を置いて綺麗な形の唇に自分の唇を重ねる。
ただ重ね合わせるだけのキスをして少し距離を取ると見えたのは真っ赤な瞳。


「積極的だな?」

「卿のお誕生日ですから」

「ふん」


肩に置いていた手が綺麗な手に絡め取られたと思ったら噛みつくようにキスをされた。
息をする暇を与えて貰えず、息苦しさとワインのアルコールとで頭がクラクラする。
まだ伝えたい言葉があるので唇が離れた瞬間に何とか酸素を取り込む。


「卿、生まれてきてくれて、私と出会ってくれて有難う御座います」

「…少し黙っていろ」


そう言って私を押し倒した卿は少し微笑んでいるように見えた。




(20121231)
素敵な一日を
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