名前・名字は目立たないけれど可愛くてよく声を掛けられていた。
それこそ恋人が欲しい奴からただ遊びたいだけの奴まで。
ただ、俺は間違いなくそんな奴らとは違うと言える。
誰でも良いから恋人が欲しい訳ではないし、遊びたい訳でもない。
名前だからこそ、という理由がある。
「やあ、名前」
「あ、おはようチャーリー。今日は早いのね」
「いつも遅いみたいだろ」
「どうかな。早くはないかも」
からかうような口調でそう言って名前は大広間を出て行った。
いつもより早く起きたからもしかして一緒に朝食を食べられるかもしれないと思ったが遅かったらしい。
雨の中の練習は慣れているつもりでもやっぱり晴れている日の練習より体は疲れる。
雨が体温を奪うせいもあるだろうし、視界が悪いせいもあるのかもしれない。
廊下が濡れてしまわないようにと杖でローブを乾かしながら大きく息を吐いた。
「あら、チャーリー、練習お疲れ様」
「よお。何処か行ってたのか?」
「スプラウト先生のお手伝いをして来たの」
そう言って名前も杖を出してローブを乾かし始める。
自分の杖を名前の髪の毛に向けて一気に乾かす。
顔を上げて有難うと笑った顔が可愛いと素直に思った。
「名前、このあと予定あるか?」
「ごめんなさい。ちょっと約束があるの」
「そうか。じゃあ、また暇な時に」
予定がある名前と別れて寮へ戻る為に階段へ向かう。
すると後ろから名前を呼ぶ声がして振り向くと、前から名前をデートに誘っていたやつだった。
今日の約束がデートなのか、それはあの二人にしか解らない。
クリスマスが近付いてくると場内は何処もキラキラしてなんとなく皆浮かれている。
そして授業の度にスネイプは課題を沢山出しては生徒の不満を買っていた。
不満の声にパーシーがやけにイライラしていて、そういえば最近会話をしていない。
弟の事を考えていたからか、ビルが階段から降りてきて声を掛けられた。
隣に座ったビルは手元を覗き込んでくる。
「何だ、課題やってたのか」
「まあね。ご用件は?」
「クリスマス休暇はどうする?」
「俺はホグワーツに残るよ。ハグリッドと約束があるんだ」
「解った。そういえばあの子も残るらしい」
あの子、を強調してそう言ったビルは肩を軽く叩いて談話室の出口へと向かった。
この間名前とホグズミードに行った時見られたのが原因。
あの時の楽しそうにニヤニヤと笑う兄の顔は今でも忘れられない。
クリスマス休暇は城内が一気に静かになる。
やる事も無いから図書館にでも行こうとのんびり歩いていたら前方に名前の姿を発見した。
早足で追い付いて声を掛けると心地良い声と笑顔が返ってくる。
「課題をやろうと思って。チャーリーは?」
「俺は暇潰し。良かったら一緒にどう?手伝うぜ」
「助かる。解らない所は教えてね」
「勿論」
図書館も人が少なくていつにも増して静かだ。
俺はドラゴンの本を、名前は資料になる本を選び並んで座る。
ドラゴンの本を読みながら名前が文字を書く音を聞く。
名前は勉強が出来る方で、きっと課題の手伝いは要らない。
迷い無く本を捲り羽根ペンを動かす姿がそれを物語っている。
「その本、面白い?」
「面白いよ。読む?」
「チャーリーのオススメなら読む」
今名前の目が課題に向いていて良かったと思う。
何気なく放たれた言葉に自然と口角が上がる。
フレッドとジョージが入学前で良かったと心の底から思った。
あの二人に見られたらあっという間にからかいの的になってしまう。
チラリと名前を見ると目が文章を追い掛けていた。
「なあ、名前」
「ん?」
「俺名前が好き」
「……本気?」
「うん、本気」
ふぅん、と返事をした名前は本を捲る。
羽根ペンを持っている手は止まったまま。
視線は真っ直ぐ本に向けられているけれど文字を追い掛けてはいない。
「私もチャーリーが好きよ」
「本気?」
「うん、本気」
そう言って頷いた後チャーリーの真似、と名前は笑った。
(20140812)
緩やかに落ちる