「今度のホグズミード、一緒に行くか。エバンズも誘えよ」
珍しく誘ってくれたかと思えばリリーを誘え言われて私は首を捻った。
寒くないようにと手袋をしてマフラーを巻く。
隣でリリーが準備を終えて何かを考え込んでいる。
考えている事は恐らく私と同じだろう。
難しい顔をしているリリーに声を掛けて待ち合わせ場所へと向かった。
「あ、来た来た!おーい、名字!エバンズ!」
声が聞こえた瞬間、リリーの足が止まる。
にこやかに手を振るポッターの隣で溜息を吐いているシリウス。
立ち止まっている訳にもいかず、リリーの手を引く。
最近悪戯を辞めたポッター達と話すようになったリリーだけれど、ホグズミードに一緒に行くには抵抗があるらしい。
「お待たせしちゃったかしら?」
「全然待ってないさ。なあシリウス」
「嘘吐くなよ。一時間前から待ってただろ」
「何を言っているんだいシリウス。さあ、行こうか二人とも」
シリウスの脇腹にポッターの肘が入ったように見えた。
脇腹を押さえるシリウスを気にせずポッターが手を伸ばす。
けれどそれを無視してリリーが歩き出してしまい、手を握ったままの私もそれについて行く。
後ろからジェームズとシリウスが追い掛けてくる足音が聞こえた。
それから嬉しそうなポッターの声も。
雑貨屋に行こうと言い出したポッターの意見に反論も無く、各々好きなように見始める。
意外にもリリーについて行くかと思ったポッターは正反対の方向へと歩いていった。
私も新しい羽根ペンを買わなければならないと売り場へと移動する。
会計を済ませたところで突然肩に手を置かれて少し驚きながら振り向く。
シリウスが辺りを見回しながら私の手の中にある袋を確認した。
「買い物は終わったか?」
「ええ」
「よし、じゃあ行くぞ」
「え?でもリリーとポッターは?」
質問に答えず歩き出したシリウスに手を引かれて外へ出る。
振り返ってみたけれど店内にリリーの姿は見つからない。
ホグワーツ生で混雑する中をシリウスはどんどん進んでいく。
雑貨屋からかなり離れた所でやっとシリウスは立ち止まった。
そして腕を伸ばし、私のマフラーを巻き直す。
「大丈夫か?」
「大丈夫だけど、最初からこういう計画だったの?」
「ああ。黙ってて悪かったな」
マフラーを直したついでにシリウスの手が頭を撫でた。
今頃リリーは私を探しているだろうか。
もしかしたら、怒っているかもしれない。
帰ったらまず一番最初にリリーに謝らなければ。
「でも、これでデート出来るだろ」
「……そうね」
「今日は名前の行きたい店に付き合ってやるよ」
「本当に?」
「ああ」
頷いたのを確認して私はホグズミードの様々な店舗を思い浮かべた。
確かに行きたい店は何ヶ所かある。
バタービールを持って席に戻るとシリウスが机に突っ伏していた。
バタービールを机に置くと音に気付いたのか顔を上げる。
ぐったりとした様子で、余り気分は良くなさそうだ。
「大丈夫?」
「……何でリーマスといい名前といい平気なんだよ」
「美味しいじゃない、お菓子」
シリウスは黙ったままバタービールに手を伸ばす。
ハニーデュークスを選択したらお菓子の甘い香りにやられてしまったらしい。
本人曰く鼻が良く利くらしいのだけど。
「苦手なお店に付き合わせちゃったわ」
「別に、俺が言い出した事だ」
「有難う。今日はもう此処でのんびりしましょう」
灰色の瞳が驚いたように此方を向く。
久しぶりのデートだから、一緒に居られたらそれで良い。
行きたいお店なら、リリーとだって回る事が出来る。
「今日は名前の希望を聞く約束だしな」
「そうよ。偶にはのんびりするのも良いじゃない」
「そうだな」
呟くようにそう言った後、頬に唇が触れた。
リリーに悪いと思うけれど、シリウスと過ごせる時間はやっぱり嬉しい。
(20140805)
今日は二人で