目が覚めると見知らぬ男の人が覗き込んでいた。
私が目覚めたのを見てにっこりと笑う。


「おはようおねーさん。俺はジョージ・ウィーズリー。此処が何処だか教えてくれない?」


驚きが度を越えると人間声も出ない物なのだと初めて知った。
これが今から一週間前の朝の出来事。




ジョージは私が前に使っていたパソコンに興味を持ったらしい。
ジョージは日本語が読めないし、インターネットは繋がっていないから出来る事は限られている。
それでもジョージは何やら弄って遊んでいるから楽しいのだろう。
パソコンで遊んでいる姿は普通の男の子。
しかしジョージは自分は魔法使いなのだと言った。
家族全員が魔法使いで魔法魔術学校まであるらしい。
この事は秘密と言いながら魔法を見せてくれた事がある。
この目で見てもやっぱり信じられないと思ってしまう。




仕事を終えてパソコンの電源を切って伸びをする。
適度に体を動かすようにはしているけれど、集中しているとなかなか難しい。
背骨が音を立てるのを聞きながら悪い癖を直さなければと毎日思う。


「仕事終わった?」

「うん。ご飯作るよ、何食べたい?」


聞きながら立ち上がり顔を上げると唇に柔らかい物が触れた。
驚いているとニッと笑ったジョージの顔が目に入る。
キスされたのだと理解して、目の前のジョージの頬を摘む。
痛い痛いと騒ぐから手を離してみれば大袈裟に頬を撫で始める。


「そんなに痛くないでしょう?」

「痛い痛い。名前がキスしてくれたら治まる」

「ご飯適当に作るよ」


まだ痛がっているジョージを放っておいてキッチンへ行き冷蔵庫を開けた。
適当に野菜を取り出していると手が伸びてきて野菜が消えていく。
振り向くとジョージが立っていて、両手で野菜を抱えていた。
全く赤くもなっていない頬の痛みはもうすっかり消えたらしい。


「手伝うよ」

「有難う。でも魔法は使わないでね」

「はいはい、オネエサマ」


からかうような口調でそう言ったジョージは野菜を洗い始める。
此処で生活し始めて直ぐの頃、魔法で手伝ってくれた事があったのだけど、色々と悲惨な事になって片付けが大変だった。
皮を剥いたのか実を削ったのか解らない人参やジャガイモは二度と見なくて良い。


出来上がった料理を食べながら何となくついているテレビを眺める。
食事時にテレビはあまり見ないけれど、ジョージが見たがるのだ。
言葉は解らなくてもバラエティーやドラマを見るのは面白いらしい。
画面の中では俳優と女優のラブシーンが流れていた。
この女優熱愛報道が出ていたな、なんて事を思い出しながらお味噌汁を飲む。


「ねえジョージ、明日出掛けようか。行きたい所ある?」

「行きたい所?俺日本語解んねえしなぁ……あ、何処かで悪戯道具売ってたりしない?」


悪戯と口に出した瞬間顔が生き生きとし出した気がする。
悪戯道具と言ったらジョークグッズみたいな物で良いだろうか。
ありそうなお店を思い浮かべながらOKを伝えるとジョージは嬉しそうに笑った。
余り散らかるような物は買わないように注意しなければ。


「楽しみだな、デート」


デートという言葉に首を捻りそうになったけれど、楽しみにしている様子を見て間違ってはいないしまあ良いかと思ってしまった。
ジョージが嬉しそうだと嬉しくなるこの気持ちはきっと兄弟に対するような物に違いない。




(20140805)
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