土曜日の午後、皆がホグズミードに行く中図書館でレポート。
大好きな魔法薬のレポートだからゆっくりとやりたかった。
皆がホグズミードに行っている今はいつもより静かでやりやすい。
もう少しで書き終わるというところで足音が近付いてきた。


「ハイ、名前。此処、良いかな?」

「あら、ビル。どうぞ」

「じゃあ失礼して」


にっこりと笑って隣に座るビル・ウィーズリー。
手に持っていた本を机の上に置いたけれど開く素振りは無い。
友人のビルは貴女に気があるのよという言葉を思い出す。
確かに好かれているのだろうと思える出来事はあった。
ホグズミードに誘われたり、食事の時隣に座ったり。


「ホグズミードには行かないの?」

「三年生じゃないからね」

「まあ、そうね」

「それに、名前みたいにレポートを片付けるのも良いなって思ったんだ」

「羊皮紙も羽根ペンも持たずに?」


バレちゃった?と笑うビルから視線を逸らす。
このままの調子でビルと会話していたら長くなる気がする。
もう少しだからレポートを完成させてしまいたい。
羽根ペンを動かし始めると隣で本を開く音が聞こえたような気がした。


書き上がったレポートをざっと見直して羽根ペンを置く。
これで明日の日曜日はゆっくり過ごす事が出来る。
と言ってもこの寮生活で出来る事は限られているけれど。
それでも課題に終われる休日を連続で過ごすよりよっぽど良い。


「終わったの?自信は?」

「バッチリ。良い評価が貰えたら良いんだけど」

「名前は魔法薬得意だからきっと大丈夫」


お礼の言葉を返し、図書館を出る為に立ち上がる。
同じ様に立ち上がったビルが隣を歩き始めた。
私より長い足で私と同じペースで。
いつも賑やかな廊下で二人分の足音だけが聞こえる。


「ねえ名前、この間のハッフルパフのダートはどうなった?」

「ハッフルパフってジョーンズの事?彼なら新しいガールフレンドに夢中。レイブンクローのクリス」

「あの変身学の得意な子か」

「うん。手当たり次第声を掛けてやっと見つけたみたい」


ふぅん、と言った声に何気なくビルを見上げると何だか嬉しそうな顔をしていた。
いつも友人に見せるようなのじゃなくて、本当に嬉しそうに。
こんな顔もするのか、と長い付き合いの中で新たな発見をする。
寮生活だから大抵の事は解っているつもりでも新しい発見はあるものだ。


談話室には思ったより人が少なく、暖炉の前が空いている。
今日は良い天気で割と暖かいから一、二年生は外で遊んでいるのだろう。
窓際の席に座り外を見るとやはり湖の周辺で遊ぶ姿があった。


「楽しそうだね」


隣に座りながら同じように外を見るビル。
その横顔に視線を移す。
ビルは端正な顔立ちをしている。
横顔だというのにとても綺麗だと思う。
不意に此方を向いた青色の瞳まで綺麗だ。


「そんなに見つめられると、嬉しいよ」

「嬉しいの?」

「だって、名前が僕を見てくれてる」


嬉しいと言う割に真剣な顔をしてビルは身を乗り出す。
拒否をしようと思えば出来たけれど、しなかった。
一度目は軽く触れるだけ、二度目は少し長く。
いつも隣で香るよく知っているビルの香水が鼻を擽る。


「今度のホグズミード、デートしない?恋人として」

「考えておくわ」

「それは恋人の方?デートの方?」

「デートの方」


立ち上がろうとしたのを腕を掴まれた事で止められた。
気が付いたら背中にはビルの腕がある。
これは押しに負けたと言うのだろうか。
思いの外抱き締められているこの状況が心地良い。
貴女に気があるのよ、と言っていた友人の笑顔が浮かぶ。
此処が談話室だと思い出したのはもう少し後だった。




(20140713)
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