お似合いの二人だ、なんてぼんやりカップルを眺める。
確か先週キスしているところに出くわしたと誰かが言っていた。
ただ一緒に課題をやっているだけで流れている空気が違う。
正直に言えば羨ましいと思うけど、彼が良い訳じゃない。


「ハイ、名前。この本読み終わったから返すよ」

「あ、ハイビル。もう読んだの?」

「うん。時間があったから。面白かったよ」

「そう。良かった」


貸していた本を受け取ると隣にビルが腰を下ろした。
ベンチは私一人では広かったけれど、ビルと二人ではちょうど良い。
あちこちにある石造りのベンチの中でこれは小さい方だと思う。


「課題は終わった?昨日本探してたみたいだけど」

「見てたの?」

「偶然ね」

「声掛けてよ」

「一生懸命だったから」


ついね、と笑うビルから目を背けるとカップルがキスする瞬間だった。
確か昨日は図書館で同じようにキスしていたような気がする。
下手したら喋っているよりもキスしている時間の方が長いんじゃないだろうか。


「何見てるの」

「目に入るんだよ。見てるんじゃないよ」

「そう?」


見てるんでしょう?と言いたいような口調。
それより、と話題を変えてもまだビルはニヤニヤ笑っている。
大体私はあのカップルより先に此処に座っていた。
確かに眺めてはいたけれど、それは目線の先に居ただけに過ぎない。


「ニヤニヤしないでよ」

「ごめんごめん。この本参考になるよ」

「あ、それ私が探してた本!何処にあったの?」

「図書館から借りてきたんだ」


あんなに探して見つけられなかったと言うのに。
お礼の言葉を口にしてから開くと探し求めていたページがあった。
これで今日のうちに課題を終わらせられたら良いのだけど。
そうだ、頭の良いビルが居るから手伝って貰おうか。


「手伝う?」

「言いたい事バレてた」

「何年の付き合いだと思ってるの」

「六年」


今度は面白そうに笑いながら私の開いていた本を持ち上げる。
その傍ら鞄から羊皮紙と羽根ペンを取り出して此方へと差し出した。
それを受け取ってビルが読み上げる文章を書き出していく。
私が書くのを待ってゆっくりと読み上げてくれるのはいつもの事。


「ねえ名前」

「ん?」

「本当は羨ましいんでしょ?」

「何の話?」

「とぼけなくて良いよ」


ビルの手が私の足の真横に置かれ、それを支えに身を乗り出す。
ああ、綺麗な顔だ、と思っている間にキスされていた。
この位置から向こうが見えるという事は向こうから此方も見える訳で。
見ていませんようにとか気付きませんようにとかそんな事を頭の片隅で思う。
見ておいて勝手な言い分だとは思うけれどそう思わずにはいられない。
だって、こういうビルの顔や雰囲気は私しか知らなくて良いと思うから。




(20140625)
羨ましいんでしょ?
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