「お前、どうせビルの事まだ好きだからジョージを受け入れられないんだろ?それなら俺と結婚するか?」
まるで今日の天気は良くなるらしいと言うような調子でシリウスが言ったのは一年前の事。
言われた事は正論ではあるのだけど、どうしてそこからシリウスと結婚という選択肢が出たのかは解らない。
解らないけれど、返事を急かされてそれも良いかもしれないと思った事は確か。
そして気が付けば私のファミリーネームは名字からブラックへと変わっていた。
こうすると美味しいのだとフラーに教えて貰ったポトフのレシピを見ながらお鍋をかき混ぜる。
やけに材料が多くてクリーチャーに手伝って貰わなければきっと出来なかった。
これも食べて!とバゲットを貰ったので適当な大きさにカットする。
フラー曰く、イギリスのパンよりもフランスのパンの方が美味しいらしい。
私はイギリスのパンも美味しいと思うのだけど、育った環境の差だろうか。
ぼんやりそんな事を考えていたら暖炉の炎が大きく燃え上がった。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい。はい、これ使って」
「有難う。シリウスももう直ぐ帰ってくるよ」
「あら、そうなの?」
手渡した小さな箒で煤を払いながらハリーが頷く。
その直後にまた炎が大きくなり、シリウスが現れた。
ハリーと同じように小さな箒を手渡すと煤を払い始める。
「お帰りなさい」
「ああ」
シリウスの手が二、三度頭を撫でて離れていく。
いつもと変わらないやり取りがとても幸せだと思う。
食後にワインを飲むのがシリウスの日課で、私は何となくそれに付き合っている。
と言ってもシリウスにお前は飲むなと言われているから紅茶でだけれど。
フラーに教えて貰ったレシピが甚く気に入ったらしくシリウスの今日のお供はポトフだ。
「これ、また作ってくれ」
「良いわよ。その時は手伝ってね」
「暇だったらな」
そう言ってジャガイモを口の中に入れ、満足そうにする。
クリーチャーに手伝って貰ったとは言え気に入って貰えるのなら嬉しい。
きっとまたその内クリーチャーに手伝いをお願いして作るだろう。
何よりハリーも美味しいと言ってくれたのだから頑張る理由がある。
「土曜日、何か約束あるか?」
「無いわよ。あ、ハリーはジニーとデートって言ってたけど」
「ハリーは良いんだよ」
シリウスからそんな言葉が出るなんて思わなかった。
何処へ行くにも、ではないけれどやたらとハリーと出掛けたがっていたのに。
不思議に思っているとシリウスがチケットのような物を取り出した。
「キングズリーから貰ったんだ」
「ソープパーク。遊園地じゃない」
「行った事あるのか?」
「昔ね。ホグワーツに入る前」
人気の遊園地で入場券を買うのにもかなり並んだ覚えがある。
でもこのソープパークは殆どが絶叫系のアトラクションで乗れなかった。
それ以来一度も行こうと話に上らず、行く機会もなく。
そう説明するとシリウスはワインを飲み干した。
「じゃあ、土曜日その遊園地行くか?」
「シリウスってコースターとか乗った事あるの?」
「無い」
「大丈夫?こう、落ちるのよ?」
手でコースターの動きを再現するとシリウスのグレーの瞳が追い掛けてくる。
そういえばグリンゴッツにあるトロッコも似たような物かもしれない。
シリウスは昔からグリンゴッツに金庫があるから何回も乗った事がある筈。
あれが平気ならソープパークに行っても大丈夫だろう。
「行ってみりゃ解るだろ。それより、俺と行くのか?行かねえのか?」
「勿論行くわ。ふふ、デートね」
「ああ」
「楽しみにしてるわ、旦那様」
空になったグラスにワインを注ぎながらそう言えばシリウスは満足気に笑った。
(20140615)
三人家族