閉店の時間も近くなると店内も静かになってくる。
商品を並べ直しながら店内を歩く。
自分達が作った悪戯グッズをキラキラした目で見ている子供を見るのはとても気分が良い。


散らかっていたインスタント煙幕を片付けていると、近くに人の気配を感じた。
大事なお客様だ、とすぐさま顔を上げると此方に背中を向けた女の子が目に入る。
騙し杖の前で微動だにしない何処かで見た事がある気がする後ろ姿。
店に来ていたら勿論見た事があるかもしれないし、ホグワーツの上級生ならホグワーツで見た筈。


「おーいジョージ!ちょっと来てくれ!」

「ああ、今行く」


フレッドに呼ばれた事で思考を止め、気が付いたら女の子は居なくなっていた。
もうすぐ閉店だし、きっと帰ったのだろう。


翌日、同じ時間にその女の子が現れた。
いつ来たのかは解らないが、今日はカナリア・クリームの棚の前。
商品を手に取るでもなくたたただ立っているだけ。
声をかけてみようと一歩踏み出した途端女の子が振り向いた。


「やあ。買わないのかい?」

「え、あ……じゃあ、これ一つ下さい」


俯きながら代金を差し出しす女の子から受け取る代わりにカナリア・クリームを差し出す。
受け取った瞬間に立ち去ろうとしたのを腕を掴んで引き止める。
せっかく会話のチャンスが訪れたのだからこれを逃す訳にはいかない。
自分を引き止めた原因を確かめてハッとしたように腕を引こうとする。


「あの、何ですか?」

「君はホグワーツ生?」

「はい」

「じゃあ、割引だ。その代わりホグワーツ生に宣伝してくれよ」


数枚を握らせて手を離すと驚きを顔に浮かべた。
暫く呆然と此方を見ていたから笑顔を見せると女の子はハッとしたように背中を向ける。
足早に立ち去ろうとする後ろ姿にまたどうぞと声を掛けた。




あの女の子が最後に来てから一週間。
つまり、あの女の子に話し掛けてから一週間が経つ。
誤って触ってしまい木の枝に変わってしまった騙し杖を持ちながら店内を歩く。
夏休みだから家族で旅行に行ったのかもしれないし毎日友達と遊んでいるのかもしれない。
大体二日連続で来ていたのだって偶然かもしれないのだ。


インスタント煙幕の棚を通り過ぎ、ふと気になって足を止める。
数歩戻り、棚の前に立つ一週間前とは違う髪色の女の子の肩に手を乗せた。


「こんばんは、カナリア・クリームのお嬢さん」

「え?どうして、」

「香水」


思わずといった様子で一歩下がった女の子の手を掴む。
一週間前と同じだ、なんて考えながら戸惑っている姿を眺める。
けれど、突然落ち着きを取り戻したかのように顔を上げた。


「……あの、この間は変な態度を取ってごめんなさい。驚いちゃって」

「気にしてないさ」

「良かった……今日は謝りに来たんだけど、なかなか、タイミングを掴めなくて。それで、ずっと店内に、」


止めなければこのままずっと喋り続けそうな女の子の口を止める為に自分の唇に立てた人差し指を当てる。
それを見た女の子はピタリと喋るのを辞め、途端に不安そうな様子になり、髪の毛の色が戻っていく。
魔法が切れてしまったのだろうけれど、元の色の方が似合っていると思う。
掴んだままだった手首を一度離すとぎこちない動きでゆっくりと降りていった。
それでも以前のように足早に立ち去ろうとはしない。


「お嬢さん、名前は?」

「名前・名字。今度七年生です」

「なるぼど」


やはり見た事があったのはホグワーツで合っていた。
首を傾げる目の前の女の子に何でも無いと伝えても相変わらず不思議そうな表情を浮かべている。


「名前、俺がどっちか解る?」

「はい。ジョージ、です」

「正解。明日店が休みなんだけど、予定はある?」

「無いですけど……え?」

「じゃあ、明日12時に漏れ鍋で」


どう?と付け加えると名前の顔は一瞬の驚きから満面の笑顔へと変わった。




(20140608)
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