目を開けて叫び声を上げそうになったのを何とか堪えた。
どうしてこんな事になっているのか考えてみるけれど思い当たらない。
確かフレッドとジョージの部屋の片付けを見に行って紅茶を飲んでいた筈。
それがどうして朝で、目の前でビルが眠っているのだろう。
余りにも衝撃的過ぎて呼吸をする事すら躊躇われる。
慎重に慎重にベッドから抜け出してビルが起きてない事を確認して静かに息を吐いた。


窓の外は明るくなっていて時計を見ると短針は六を指している。
ふと気が付いて自分の着ている服を見下ろすと、ビルの服を着ている事に気が付いた。
ホグワーツでもこの家でも着ているのを何度か見ている。
長袖のシャツは手がすっかり隠れてしまい、丈も長い。
まるでワンピースのようだ、と自分の格好を見て思った。
肌寒さを感じて何故かビルの机の上に置いてある自分のローブを被る。
そのまま窓際に椅子を持って行って座り、ホッと息を吐いた。
膝を抱え込めば体がすっぽりとローブに収まるので暖かい。
それに、ベッドから離れているからビルを起こしてしまう事もないだろう。
色々と疑問は尽きないけれど、今この状況はいつまでも続いて欲しいだなんて思ってしまった。
疑問の答えを知るのは後で良い。


「…あれ?名前?」


短針が一つ進んだ頃、ビルの目が開いて何度か瞬きをしてそう言った。
おはよう、と声を掛けるとビルの青い目が此方を向く。


「おはよう…名前!」

「は、はいっ?」


急に起き上がって名前を呼ばれ、驚きで肩が跳ねた。
ベッドから抜け出して私の目の前まで来たビルは瞬きを繰り返す。
そして徐に伸ばされた手が頬を撫で、次に頭を撫でられる。
訳が解らず、ドキドキとしているとビルが良かったと呟いて笑った。




ジニーを起こさないように着替えてキッチンへ降りる。
そこにはビルとアーサーさんとモリーさん居た。
アーサーさんもモリーさんは驚いたような顔をしてから良かったと笑う。
首を傾げるとビルに座るよう促され、すかさずモリーさんが朝食を出してくれた。


「あの、何が良かった、なの?」

「…名前もしかして、覚えてない?」

「え?何を?」


私の返答に三人が顔を見合わせて、そして私を見る。
一気に視線が集まってドギマギしてしまう。


「あ、あの、私フレッドとジョージと部屋の片付けをしてたと、思うんだけど」

「その時に何か飲んだ?」

「…モリーさんの紅茶」

「それだよ」

「え?」

「その紅茶にフレッドが薬を入れて、その薬の影響で名前は外見も中身も六歳になっちゃったんだよ」


ビルの言葉はしっかり聞こえている筈なのに上手く理解出来なかった。
ポカンとしている私にアーサーさんとモリーさんも同じような言葉を掛ける。
つまり、記憶のない間六歳の私がこの家で好き勝手暮らしていた。
理解した瞬間に血の気が引いていくのが解る。
何か変な事をしてはいないか、変な事を言っていないか、不安で堪らない。


「まあ!名前大丈夫?気分が悪いのかしら?」

「あ、大丈夫です…あの、でも温かい紅茶が欲しいです」

「直ぐに用意しますからね」


モリーさんはテキパキと杖を振って淹れた紅茶を出してくれた。
大好きなモリーさんの紅茶を一口飲んでホッと息を吐く。
大丈夫かと声を掛けてくれる三人に頷いて温かい紅茶を一気に飲み干した。


「私、あの、何かご迷惑をお掛けしませんでしたか?」

「とんでもない!名前は私にマグルの話を沢山してくれたよ」

「そうよ。お手伝いも沢山してくれたのよ」

「それなら…良かったです」


迷惑だなんてとんでもないと笑ってくれるアーサーさんとモリーさん。
この二人に嫌われてしまったらきっと立ち直れない。
仕事へ行くアーサーさんを見送ってやっと朝食に手を伸ばした。
いつも通りモリーさんの作る料理は優しい味がする。


「父さん母さんの言う通り、全然迷惑なんて事はなかったよ」

「本当?」

「うん。小さい名前もとっても可愛かった」


微笑んでそんな事を言うから、スープが変なところに入ってしまった。
咳き込む私の背中を撫でる手はいつも通り温かい。




(20131111)
小瓶の中身 9
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