一日の始まりは順調で、今日名前は俺と遊ぶと言ってくれた。
それなのに今隣に居るのはフレッドとチャーリー。
名前の側にはビルが居て、楽しそうにチェスをしている。
朝食が終わってさあ遊ぼうといった時に帰ってきたビルは名前を見て真っ先に俺とフレッドを見た。
名前は名前でビルを見た瞬間に顔がパッと変わってそしてそれ以降ビルにべったり。
その事に落ち込み、ビルに怒られ、何というか朝の順調っぷりが嘘のようだ。
今日ばかりは大人しくジャガイモの皮だって剥くし掃除だってする。
今日はもうこれ以上反抗する気力も残ってはいないのだ。
「あ、梟!」
「ああ、チェシャーが来たね。名前の梟だよ」
「そうなの?でもビルの方が好きみたい」
シュンとした名前の頭を撫でるビルの肩にはチェシャーが居て体を擦り寄せている。
それはビルが居なければ名前に対してする行為だった。
まあ、ビルが飼い主で名前に預けられている状況なのだから当たり前だろう。
「やっぱり名前はビルが一番好きなんだなぁ」
「チャーリーにだってべったりだったじゃないか」
「それはビルが帰ってくる前の話だろ?」
「ビルとチャーリーが好きなんじゃないか?」
隣で交わされるフレッドとチャーリーの言葉に一人頷く。
どうも名前は一番最初に出会ったらしいビルが好きで、その次にチャーリーが好きなんじゃないかと思う。
パーシーとは一つしか違わないからか先輩後輩と言うよりは同学年に思っているような気がする。
俺達だって一つしか違わないのに名前はロンやジニー達と同じ、弟のようだと思っているのだ。
昼食も夕食もビルの隣、ビルがロンとチェスをすればそれをビルの膝の上で見て、そしてビルに本を読んで貰う時も膝の上。
とにかくビルの近くにずっと居て俺が入り込む隙間なんてなかった。
まあ、ずっとそれが見える場所に居て偶に目が合った名前が笑って手を振ってくれたりはしたのだけど。
今もお風呂から出た名前の髪をビルがタオルで拭いていた。
「名前はもう一人でお風呂に入れるんだね」
「うん。ママはね、いつもお仕事してるから」
「…確か、新聞記者だっけ?」
「そうなの。パパは銀行でお仕事だから、ビルと一緒だね!」
「そうだね」
顔を見合わせてにこにこと笑う二人。
普段の二人よりも兄妹という感じが強い気がする。
というか、名前の両親の職業なんて初めて知った。
反応からしてビルは知っていたように見える。
名前が元に戻ったら聞いてみよう。
「ビルと一緒に寝ちゃ駄目?」
「良いよ」
「…駄目!」
不意に聞こえてきた言葉に思わず大声が出た。
きょとんとする名前を抱き上げてビルから離す。
例え今名前が六歳とはいえ、もし途中で元に戻ったらどうするのだろう。
その時の事を考えたら何が何でも反対しなければならない。
「どうして駄目なの?」
「名前が女の子だからさ!」
「でも、昨日はチャーリーと一緒に寝たよ」
さらっと告げられた言葉にくらりとした。
一体いつの間にそんな事になっていたのだろう。
でも確かに今朝一緒に降りてきたではないか。
「とにかく、駄目だ!いつも通りジニーと寝るんだ!」
「でも、ビルは良いよって言ってくれたもん!」
強い口調で言われた事と、名前の目に溜まった涙に言葉が出て来なくなった。
堪えきれなかった涙が一粒零れると次々零れ落ちていく。
泣かせるつもりなんてなかったのに。
スッと隣から伸びたビルの腕が名前を抱き上げる。
「ジョージ、名前は六歳なんだよ」
「知ってるけど」
「まあ、気持ちは解るけどね。さあ、名前一緒に寝ようか」
「…うん」
おやすみ、と掛けられた声に返事が出来ず、遠ざかっていく足音を聞いている事しか出来なかった。
(20131111)
小瓶の中身 8