「美味いか?」

「うん!」

「そうか、良かったな」


どうしてこんな事になっているのだろう。
目の前の光景に溜息を吐きたくなって、何とかそれを飲み込む。
名前だと名乗った少女とあのウィーズリー家の次男。
ケーキを食べる名前を見守る様子はまるで兄妹のようだ。
何を考えているんだ自分は、と気付いて珈琲を一口飲む。
別に名前がウィーズリー達と仲が良いのなんてとっくに知っている。
本人が嬉しそうに話していたし、何よりあの双子がベッタリなのだ。
兄妹のように見えたって何も不自然ではない。


それよりも一緒にカフェに居る今この状況の方が問題なのだ。
同じテーブルで向かい合って座っている。
そんなつもりはなかったのに名前が手を引くからうっかり一緒に来てしまった。


「あ、しまった。買い忘れがあったな…名前、待っててくれるか?」

「うん、お兄ちゃんと待ってる」

「は?ちょっ、」

「そうか、頼むな。直ぐ戻るから」

「おい!」


人の制止も聞かず、ウィーズリーはさっさと出て行く。
それも名前の頭を撫でた後に、僕の頭を撫でて。


「…何なんだあいつは。人の事を子供か何かだと思ってるのか」

「お兄ちゃんは、チャーリーと仲良いの?」

「仲良くなんかない。初対面だ」

「そうなの?じゃあ、今日からお友達だね」


にっこりと笑った名前に返す言葉が出てこない。
ウィーズリーと友達だなんて一生有り得ないだろう。
それにしても、半信半疑ではあったけれど、やはりこの少女は名前なのだ。
いつも見ていた笑顔が、少しだけ幼くなっただけ。


「お兄ちゃんは、未来の私とはお友達なの?」


未来の、という言葉に一瞬首を傾げかける。
けれど直ぐにウィーズリーの話を思い出して納得した。
そして名前との関係を考えたところで何も浮かばない。
友達と言えるのか、解らなかった。
普段余り一緒に過ごす訳ではないが、会う度話し掛けられる。
図書館で隣に座ってはいても名前はいつだって勉強に夢中だ。
いつもの名前に聞けば間違いなく友達だと言うだろう。
でも、僕には名前との関係性を表す言葉は思いつかない。


「さあな…いつもお前がちょっかい掛けてくるんだ」

「え?じゃあもしかして未来の私はお兄ちゃんをいじめてたの?」

「何で…そうなるんだ」


違うの?と首を傾げる名前にとりあえず違う事だけ伝える。
自分にだってどんな関係かはっきりと解らないのに答えを求められても答えられない。
かと言って何とか説明しようと思ってもどう説明すれば良いのかさっぱりだった。
ポッターやウィーズリー相手ならスラスラと言葉が出ると言うのに。


「お前は、昔からそんな風なのか?」

「え?」

「僕はマルフォイだぞ。いずれお前とは敵対するかもしれないんだ」

「どういう事?」

「…お前に言っても仕方ないか」


頭の上に沢山ハテナマークが浮かんでいるように見える。
今の、この小さな名前に言ったところで仕方ない。
この先何が起こるか解らないけれど、いずれはマルフォイ家当主になる。
そうなれば今まで通り名前と過ごす事は出来ず、マグル生まれだと言わなければならない。
何故だか名前に言う事の出来ないあの言葉だって言わなければならなくなるかもしれないのだ。
その時、名前はどんな顔をするだろう。
いつかみたいに怒るか、それとも傷付くだろうか。
それは嫌だと思っている自分は大分名前に絆されている。


「お兄ちゃん?」


不思議そうな顔で見ている名前の言葉で考え込んでしまっていた事に気付いた。
真っ直ぐ僕を見る目はいつもの名前と変わらない。
大丈夫だと伝える代わりに小さな頭を撫でる。
いつもは撫でられているから、不思議な気分だ。
そして、この暖かい気持ちも、今は素直に受け止めよう。


「次に会う時は、いつもの名前に戻っていてくれよ?」

「私も、早くお兄ちゃんに会える位まで大きくなりたいな。それでね、お兄ちゃんと沢山楽しい事して過ごすの!」


そう言ってまたケーキに夢中になる名前は僕の顔が赤くなっている事には気付かない。
本当は喜んではいけないのに名前の言葉が嬉しくて仕方ないだなんて。
誤魔化すように外へ顔を向けるとウィーズリーが戻ってくるのが見えた。
ああ、早くこの顔の熱が引かないだろうか。




(20131026)
小瓶の中身 5
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -