小さくなってしまった名前をとりあえずベッドに座らせて飲みかけだった紅茶を渡した。
お礼を言って受け取った名前はやっぱり名前なのに、いつもと違って見えるのは不思議そうにしている目のせい。
相変わらず俺とフレッドを交互に見ては部屋のあちこちを見ている。


「名前は解るか?」

「うん。名前・名字」

「何歳?」

「六歳だよ」


カップを傾けると名前の顔は半分以上見えなくなった。
フレッドと顔を見合わせて同じように頭を掻く。
薬で若返った名前は記憶も六歳の時の物に戻ってしまったらしい。
そうなると自分が魔法使いだという事も此処が隠れ穴だという事も忘れてしまっている。
名前からしたら全く訳の解らない状況なのだろう。


「お兄ちゃん達、双子なの?」

「そうさ。俺がフレッドで」

「俺がジョージ」

「フレッドとジョージね。此処はお兄ちゃん達のお部屋?」

「うん」

「どうして私がお兄ちゃん達のお部屋に居るの?」


首を傾げた六歳の名前はとても可愛い。
思わず抱き締めたくなったけれど、何とか我慢する。
きっとまだ心を開いてくれてはいないと思う。
それなのに抱き締めて名前に嫌われてしまったら立ち直れない。
と思っていたらフレッドが名前を抱き上げて膝の上に乗せた。


「名前はねぇ、今未来に来てるんだよー」

「未来?じゃあ、未来で私はフレッドとお友達なのね!」

「お!俺がフレッドだって解るのか!」


よしよし、と頭を撫でるフレッドの膝から名前を抱き上げる。
まさか名前をこんな風に抱き上げる日が来るなんて。


「おいおい、ヤキモチか?」


ニヤニヤ笑うフレッドを無視して名前の頭を撫でる。
きょとんとして見上げる表情が可愛くて堪らない。
とりあえず頭を撫でてみるとにっこりと笑う。
六歳の名前がこんなに可愛いだなんて、これは反則だ。


「ジョージも、未来の私とお友達なの?」

「うん、そうだよ」

「そうなんだ。良かった」


嬉しそうに笑った顔が可愛くて堪らず抱き締める。
成長しても嬉しそうに笑う顔は変わらなくてやっぱり名前なのだと確信した。
名前を離すとキョロキョロと部屋を見渡して目を輝かせる。
まだ魔法の存在を知らないから、色々な物が珍しくて仕方ない筈。


「名前、良い物見せてやるよ」

「なぁに?チョコレート?」

「ただのチョコレートじゃないんだぜ。開けてみろよ」

「きっと楽しい事が起こる」


チョコレートの封を開けた瞬間、ピョンピョンと跳ね回る。
それを目で追い掛けて名前は手を叩いて喜ぶ。
フレッドが捕まえて名前の掌に乗せると慌てて捕まえる。
蛙チョコでこんなにキラキラとした顔が見られるなら、こんなに嬉しい事はない。


「動き回るチョコレートなんて初めて見た!」

「だろ?よし、次は、」


そうフレッドが言った瞬間扉が開いてジニーが入ってきた。
やばい、と思った瞬間にジニーの目が名前を見る。


「フレッド、ジョージ、名前を探してたんだけど…その子は誰?」

「えっと…この子は、」

「名前に似てるわ」

「お姉ちゃんも、私を知ってるの?」

「え?もしかして、名前なの?」

「…ああ、うん」


渋々肯定した瞬間、ジニーは勢い良く部屋を出て行く。
やばいとフレッドと顔を見合わせた瞬間、下から怒鳴り声が聞こえた。




(20131005)
小瓶の中身 2
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