机の上の羊皮紙の束を捨てる為に退けた時、小瓶がころんと転がった。
拾い上げて見てみると透明で、こんな物あったっけ、と記憶を探ってみてもどうも思い当たらない。
蓋を開けて匂いを嗅いでみても何も匂いはせず、首を傾げる。
恐らく作った事に間違いはないのだけど、どういう効果か解らないから試すにも躊躇う。
「だからね、明日はジニーとハーマイオニーと約束してるのよ」
「でもさぁ」
ドアの外から声が聞こえて、ガチャという音と共にジョージが入ってくる。
カップを二つ持った名前が入ってきて咄嗟に小瓶を隠した。
どうやら何かを名前に強請っているジョージはそれに気付かない。
「だーめ。ジニー達との約束の方が先。明後日なら良いわよ」
「ちぇ…解った」
「約束ね。はい、フレッド」
差し出されたカップを受け取って中の紅茶を見た瞬間、パッと閃いた。
いつもはビルに怒られてしまうから名前には何もしないけど、今ビルはエジプト。
もう直ぐ帰ってくるとはいえ、何かしら効果が出てもそれまでは持続しないだろう。
そうと決めたら後はどうやって名前に飲ませるかを考えれば良い。
「フレッドも行く?明後日ジョージと近くの雑貨屋さんに行くんだけど」
「あー…ん、俺は辞めとくよ」
「そう?じゃあ、ジョージと二人ね」
その瞬間ジョージが嬉しそうに笑ったのが見えた。
俺は名前が大好きだけど、ジョージが抱いているのとは別の大好き。
一度も言葉にした事はなくてもずっと近くで応援している。
結末がどうなるか今から楽しみだ。
ほのぼの二人を見守りながら小瓶をどうしようか考える。
名前は自分の飲み物がないから飲ませる事は出来ない。
となれば自分かジョージのカップに入れるのが確実だ。
でもそれを名前が飲むにはどうしたら良いか。
まあ、何とかなるだろう、と半分残っている紅茶に小瓶の中身を入れた。
「名前、俺の残りだけど飲まない?」
「あらもう飲まないの?」
「うん。だから飲んじゃってよ」
名前がカップを手にしたのを見て心の中で笑う。
自然に見えるようにと近くの羊皮紙を取って捲る。
やっつけで片付けたレポートで、内容は殆ど覚えていない。
割とちゃんとやったレポートだって覚えてはいないけど。
レポートを眺めながら目の端で名前を観察する。
紅茶を飲んでいるのに何も言わないという事は味が無いのだろう。
「片付けは進んでないみたいね」
「やる気になんないよ。だって俺達はこれで充分だと思ってるし」
「そうそう。俺とジョージの眠る場所があれば良いのさ」
「モリーさんは怒ると思うけど」
そう言った直後、名前が欠伸をした。
目がとろんとしてきて、いかにも眠そうに見える。
という事はあれは眠り薬だったのだろうか。
でも眠り薬なんて作ったような記憶はない。
「名前、眠いの?」
「うん…変ね。さっきまでは平気だったのに」
「名前?大丈夫?」
「ちょっと、だ、け」
ジョージに凭れかかって名前はそのまま眠ってしまった。
やっぱり眠り薬だったのか、とがっくりしてレポートを元の場所に戻す。
沢山積み上げられたレポートを一纏めにして暖炉に放り込む。
あっという間にレポートは燃えていき炎だけになった。
これで少しだけ片付いたからもう終了で良いと思う。
「おい、フレッド!」
慌てた声に振り返るとジョージの膝に頭を乗せて眠っている小さな女の子。
オロオロしているジョージの横には先程まで名前が居た筈。
「えーと…ジョージか名前が魔法使ったか?」
「使いたいと思っても使う訳ないだろ?」
「そりゃそうだ。って事はあの小瓶の中身は若返り薬か」
「何か入れたのか?」
「ちょーっとな」
しゃがんで小さな女の子の顔をじっくりと眺める。
初めて会った頃の名前よりももっと幼い。
これは、今突然ビルが帰って来たら大変だ。
慌てているような喜んでいるような変な顔をしているジョージに小瓶を渡す。
こんなのあったかと首を捻るジョージの声のせいか、名前の瞼が持ち上がった。
現れたのは間違いなく見慣れた名前の綺麗な瞳。
「名前、気分は悪くないか?フレッドが何か入れたみたいで」
「ちゃんとどうにかするよ。だから安心しろよ名前」
話し掛けても名前はパチパチと瞬きを繰り返すだけ。
俺とジョージの顔を交互に見てそして部屋を見渡す。
もしかして話せなくなったのかと不安になりジョージと顔を合わせる。
「お兄ちゃん達、誰?どうして私の名前を知ってるの?」
首を傾げた名前の言葉にくらりと目眩がしたような気がした。
(20130930)
小瓶の中身 1