寒いなぁなんて心の中でぼやきながらなかなか暖まらない炬燵を恨めしく思う。
やっぱり新しい物を買おうかと考えて財布を思い出したところでバツ印を付けた。
淹れた時は暖かかったお茶もすっかり冷めてしまっている。
あーあ、なんて溜息を吐いた時玄関のチャイムが二回鳴った。
へい、なんて間抜けな返事をして扉を開けると立っているのは寒そうな人。
可笑しそうに笑いながら家の中へと上がる。


「間抜けな声はお前か」


つん、と人差し指でおでこをつつかれた。
そのまま彼は炬燵に入って寒い寒いと体を縮ませる。
つつかれたおでこを手で押さえながら隣に潜り込む。
不思議とさっきより暖かい気がする。
人が増えたからかなぁなんてぼんやりと思う。


「冷たいな」


隙間から覗いていた首筋に手を入れたら直ぐに離れていく。
温かかったのにと呟くと私よりも大きな手に包まれた。
外から来たのにどうして暖かいのだろう。
ジッと見ていたら吹き出す声が上から聞こえた。


「何よー」

「真剣な顔して俺の手見てるののどこが楽しいんだよ」


そう言ってからふわりと笑う。
私はこの笑顔が大好きでいつもいつも写真に収めたいと思うのだけど難しい。
人間の一瞬の表情というものはなかなか一枚の紙に閉じ込める事は出来ないのだ。
だから私は今日も記憶の引き出しに大事にしまい込む。
すっかり元に戻ってしまった表情でリモコンを取る。
先程からくだらない事を騒いでいたテレビが静かになった。


「名前」


名前を呼ばれて何?と返そうとしたのに塞がれてしまって出る事なく飲み込む。
ほんの少しだけする煙草の味。
煙草の味は苦手だったのにすっかり平気になってしまった。
だからと言って煙草を吸おうとは思わないけれど。
音を立てて離れた唇に覚えるのはいつでも不思議な感覚。
これ、という風に言葉では表せられない。
触れていたのはそれであってそれでないような、そんな感じ。


気付けばぺたんと背中に床が当たっている。
私を見下ろしてまたふわりと笑う。
残念な事にカメラはテレビの横の棚の上。
ふと手に当たる四角い機械。
あぁ、これでも良いや、と構える。


「とし、もう一回笑って」


案の定はぁ?と不思議そうな顔。
ピローン、という間抜けな音と今し方記憶した不思議そうな顔の表示。
しっかりと真ん中のボタンを押して閉じ込める。
そんな私を暫く眺めていたけれど不意に両腕を掴まれた。
片手で簡単に纏められてしまうのだから困ってしまう。


「これは取り上げる」


手の中から取り出されて机の上へ。
何をするでもなく私を上から見下ろすだけ。
いい加減見られているのも落ち着かない。
そわそわ視線が泳いでいたらしく、また笑われた。


「面白い」


笑いながら私の両腕を引っ張って私はそのまま起き上がる。
途中で引っ張る力は無くなったけれどそのまま倒れ込んだ。
鼻を擽るのはいつも吸っている煙草の苦い匂い。
すりすり、額を胸元に擦りつけて腕を回す。
背中に大きな手が回ってとんとんゆっくりとリズムを刻んでいく。


「とし」


ぽろり零れた名前に反応したかのように頭に手が回る。
炬燵が冷たかったのなんてすっかりどうでも良い。
今はとにかく温かくて暖かくて幸せなのだ。




(20120224)
寒さと暖かさの中和
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