明日はイースターだからイースターエッグを作ろうと言い出したのは確かリーだった。
それに賛同した双子に巻き込まれて作業を始めたのは私と友人を含めた五人。
しかし、気が付いたら三人が居なくなっていて、机の上に残された中途半端に着色された卵が三つ。
戻ってきたら再開するのかもしれないから触らずそのまま置いてある。
特にフレッドのは何か仕掛けられているとしたら触れれば何が起こるかわからない。


「ジョージが置いていかれるなんて珍しいね」

「まあな」


置いていかれたにしては特に気にしていない様子でジョージはシールを物色している。
薄いピンク色に塗りながらジョージの様子を見ていたら手に筆が触れた。
余所見をしながら塗るもんじゃないな、と思いながら羊皮紙の切れ端で絵具を拭う。


「何やってんだ。これ使えよ」


呆れたようなジョージがポケットからハンカチを取り出す。
汚れるからと断るより先に手を掴まれて手を拭ってくれる。
されるがままになりながらも手が触れている事に緊張してしまう。
ジョージに気付かれませんようにと願いながらなるべく意識を他所へ向けようと努力する。


「ほら、取れた」

「有難う。ハンカチ、洗って返すよ」

「いい。それより、気を付けないとまた手を塗装する事になるぜ」

「大丈夫だもーん」


まさかジョージの様子を窺っていたせいだなんて言えない。
今度はちゃんと手元を見ながら、色を塗っていく。
塗り終えた卵を机の上に置き、杖で乾かす。
乾かし終えたところでジョージの卵を見ようと視線をあげるとジョージと目が合った。
驚いてしまい咄嗟に視線を逸らす事も出来ず、目は合ったまま。
ジョージも、目を逸らさずに私を見ている。


「ジョージ?」

「……塗り終わったのか?」

「うん」


私の返事を聞いたジョージが視線を逸らす。
けれど、すぐに顔を上げたと思ったらまた視線が合う。


「じゃあ、そっち行って良い?」

「え、あ、うん」


向かい側に座っていたジョージが立ち上がり、隣に座る。
私とジョージの間には小さな子供が一人座れるくらいの空間。
どうして突然隣に座り直したんだろう。
考えても答えがわかるわけがないのにどうしての文字が頭の中で回っている。


「イースターエッグ、完成したら交換しない?」

「良いけど、私のピンクだよ」

「問題ないよ」

「じゃあ、とびっきり可愛くしようかな」


シールの中に可愛いものがあったか見ようと手を伸ばす。
その手を握られて、私の動きはピタリと止まる。
手に触れられるのは今日だけでもう二度目だ。
引く事もシールへと伸ばす事も出来ずに宙に浮いたまま。
ジョージが杖を振るとその手に向けてイースターエッグが飛んでくる。
ジョージが作っていた黄緑色のイースターエッグが私の手に着地した。


「本当は、隠したのを見つけて貰うものだけど、それじゃ交換出来ないからな」

「じゃあ、私のは完成したら渡すね」

「楽しみにしてる」


そう言ってジョージの手が離れていく。
私の手に残された黄緑色のイースターエッグにはイタチのシールが貼ってある。
ジョージとフレッドのイニシャルや、箒やスニッチのシールも。
負けないように私らしいイースターエッグを作らなければと気合が入る。
貰ったイースターエッグを机に置いて、代わりにシールを手に取った。




イースターの朝、起きてすぐ枕元にカードが置かれているのが目に入る。
名前はないけれど、イースターエッグを杖で叩いてと書かれているだけで差出人が浮かぶ。
確か使ったのは普通のゆで卵だった筈なのにいつの間にか何か仕掛けたんだろうか。
ジョージの事だから卵からひよこが出てきたりして。


杖で軽くイースターエッグを叩くと小刻みに震え出す。
パカッと音を立て開いたそれは何かをその場に吐き出して元の形に戻った。
手に取って見てみると開いた事なんてなかったかのように綺麗に元通り。
ジョージは一体いつの間にこんな魔法を掛けたのだろう。
イースターエッグ作りを思い出しながら中から出てきた小さな箱を手に取った。




着替える事もせずに慌てて部屋を出て、そのままの勢いで男子寮への階段を駆け上がる。
何度か友人と来た事のある部屋の前で深呼吸をしてそっと扉を開けた。
中からは寝息といびきが聞こえてくる。
音を立てないようにそっと歩いて目当ての人物が眠っているだろうベッドへ近付く。
そっとカーテンを捲って様子を窺おうとしたら急に手を引かれ、ベッドへと倒れ込む。
驚いて声を上げなかった自分を褒めてあげたいくらいだ。


「おはよう、名前」

「おはよう。起きてたの?」

「ああ。今日はちょっと早く目が覚めたんだ」


声を潜めて会話をしながらジョージが毛布を持ち上げて私を中へと引き摺り込む。
二人で眠るには狭いベッドでお互いに寝転んだ状態で目を合わせる。


「あのカード、ジョージでしょう?」

「うん」

「これも」

「中身、見た?」

「見た」


勿論、何が入っているのか気になるから部屋で開けてみた。
そして直ぐに昨日談話室でアメリカではチョコエッグを好きな人に渡すんだってと誰かが話していた事を思い出した。
あの時、ジョージはフレッドとリーと話していたから聞いていないんだと思っていたのに。


「俺の所に来たって事は、名前もあの話聞いてたって事?」

「うん」

「じゃあ、俺期待しても良いのかな」


まるで独り言みたいに呟いたジョージの耳が赤いのが見える。
多分、私も同じように赤いんじゃないかと思う。


「私こそ、期待しちゃう」

「良いよ。俺、名前が好きだから」

「私、ジョージが好き」

「そりゃ良かった」


その言葉と共に首の後ろと背中に回された腕で抱き寄せられる。
その直前に見えたのは安心したような、嬉しそうな、初めて見るジョージの笑顔だった。




(20200428)
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