ドキドキと騒がしい心臓の上に手を置いて深呼吸。
よし!なんて一人で気合いを入れて談話室へと降りる。
張り切りすぎたのか鞄の中から本が何冊かダイブして泣きたくなった。
しゃがんで本を拾っているといきなり陰が出来たので顔を上げる。


「派手に飛んだね」


クスクスと笑いながら本を拾ってくれるのはリーマス。
恥ずかしさから苦笑いしながらリーマスから本を受け取る。
そしてチラリとリーマスの後ろを見た。
どうやらリーマスは一人らしい。


「休日なのに、名前は早起きだね」

「目が覚めちゃって」

「そっか。僕も同じだよ」


そう言ってにっこりと笑うリーマスは爽やかだ。
どうして私はリーマスを好きでは無いのだろう。
考えたところで答えは友達だからという簡単なもの。
広間へと続く階段を降りながら課題の話をする。


「名前!リーマス!」


階段を降りきるかというところで後ろから呼ばれる名前。
立ち止まって振り返ったけれど、その人物は勢い余って私達を追い抜いていった。
隣でリーマスが笑い出して、私は溜息を吐く。


「何してるんだい、シリウス」

「止まれなかったんだよ!」

「走るからいけないんだよ」

「リーマスの言う通りだわ」


私の言葉にシリウスはしゅんとしてしまう。
その姿にまたリーマスが笑い出した。
三人になって再び広間を目指して歩き出す。


広間に着くと時間が早いせいか人は疎らだった。
適当な場所に座ってトーストを手に取る。
リーマスはいつものように紅茶に角砂糖を五つ入れていて、横でシリウスもいつものようになんとも言えない顔でそれを見ていた。
笑いながらそれを見てオレンジジュースを注ぐ。


「シリウス、今日は早起きじゃないか」

「私もそう思ってたの」


シリウスは目をあちこち泳がせて何か考えている様に見えた。
普段はジェームズと一緒にもっと遅い時間に降りてくる。
そういえばピーターが居ないなと見渡すと遠くに誰かと座っていた。
名前の知らないグリフィンドールの下級生。
暫く眺めてシリウスに目を戻すと灰色の瞳がこちらを向いている。
せっかくリーマスと居る事で落ち着いていたのに。
心臓の動きが早くなるのを感じながら気にしないふり。


「…リーマスが、名前と朝食を食べる約束をしたって聞いたから」


小声だったけれど、ちゃんと聞き取ってリーマスを見る。
そんな約束はたった今初めて聞いた。
リーマスは涼しい顔でトーストをかじっている。
私の視線に気付いている筈なのに。
シリウスはシリウスで頭の上にはクエスチョンマークでいっぱい。


「僕、そんな事言ったっけ?」


途端にシリウスはなんとも表現しづらい顔になった。
リーマスは気付いているのかいないのか、ピーターを見つけて去っていく。
訳が解らず暫くの沈黙の後、シリウスの舌打ちが聞こえた。
一方私は思いがけず二人きりな状態にドキドキが再開。
それもこれも、全てシリウスがこの間言った事が原因だ。


「あ、ええと、早起きは悪くないわよ」


まあ、と小さい声で呟いてトーストをかじるシリウス。
不思議とドキドキがおさまってきたので安堵した。


「名前」

「何?」

「この間の事、考えてくれたか?」


思いきり咽せてしまい、慌てたシリウスがオロオロしている。
大丈夫だと意思表示をしてオレンジジュースを流し込んだ。
まだ少し心配顔をしていたのでスクランブルエッグを少し頂戴する。
飲み込んでから、ゆっくり息を吐き出す。


「考えたわよ…でも、あの言葉じゃあ、なんて言うか、判断出来ないし」


ゴニョゴニョと最後は言葉を濁す。
あの日以来ある考えが浮かんではバツ印を付け続けた。
俺はどうか?なんて聞かれたってどう答えて良いのか。
シリウスをそういう風に見た事も無かったし、そりゃかっこいいとは思うけれど。
レギュラスも含め、家系自体が美形なのだろう。


「名前、お前は」

「何よ」

「俺は名前が好きなんだよ!」


広間にシリウスの声が響き渡る。
私は恥ずかしいやら驚きやらで爆発しそうな心臓をなんとか堪えてシリウスに空のゴブレットを投げつけた。




(20120120)
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