夢と現実の間をさまよいながら何気なく隣に手を伸ばす。
しかし、そこにあると思った感触はなく、ひんやりとしたシーツに触れるだけ。
まだぼんやりとしてはいるが目を開き、首を動かした。
眠る時には居た筈のシリウスは居ない。
もう起きたのか、それとも私がいつもより眠ってしまったのか。
体を起こして周囲を見渡してみると扉が少し開いていた。
ぼーっとそれを見ていたら足音が近付いて来て、扉が大きく開かれる。
「なんだ、起きてたのか」
起き上がっている私を見て笑みを浮かべながらシリウスが言う。
寝起きでぼんやりとしていても私の胸はきゅんとする。
ベッドに腰掛けたシリウスは私にマグカップを差し出した。
中身はミルクがたっぷり入ったミルクティー。
人肌くらいの温度で今すぐにでも飲めそうだ。
「気を付けて飲めよ。零すなよ」
「うん」
癖でマグカップに息を吹きかけてしまう。
数回繰り返した後に人肌だったと思い出した。
一口飲むと寝起きの乾ききった喉を潤してくれる。
優しい甘さがじんわりと染み込んでいくようで、あたたかい。
シリウスを見ると同じようにミルクティーを飲んでいる。
同じ様に甘いのかな、と見つめていたら目が合った。
「美味しい」
「そうか」
私の言葉にシリウスは嬉しそうに笑う。
ミルクティーのお陰でちゃんと目が覚めた私もきゅんとする。
片手を伸ばしてベッドに置かれているシリウスの手に触れた。
直ぐに包み込まれるように握ってくれて、大きいな、と思う。
シリウスは私より背も高いし手も足も大きい。
だからか、抱き締められたり手を握られたりすると守られているような気分になる。
ミルクティーを飲み終えるとシリウスはマグカップを片付けに寝室を出て行った。
その間に着替えて洗面所へ行き身支度を整える。
ダイニングへ行くと同じ様に着替えたシリウスが朝食を作っていた。
今日は朝食も作ってくれるのか、と感動してベーコンを焼くシリウスに抱き付く。
しかし危ないからと引き剥がされてしまった。
確かに今のは良くなかったなと反省していたら額にキスをされる。
たったそれだけの事で喜んでしまう私は単純なんだろうか。
「名前、マーマレード出してくれるか?」
「はーい」
棚に置かれている数々の瓶の中からマーマレードを手に取る。
テーブルに置くと同時にシリウスがお皿を置いた。
椅子に腰を下ろし、トーストにマーマレードを塗る。
すると、シリウスがティーポットを手に向かい側に腰を下ろした。
そして予めテーブルに置かれていたカップに注がれていく。
先程とは違う香りがするからきっと茶葉が違うのだろう。
「今日は朝から至れり尽くせり」
「偶にはな。休日だし」
「嬉しい」
「なんて、ただ早く起きただけだったりしてな」
「それでも嬉しいよ」
私はずっとにこにこしている自覚がある。
ただ早く起きただけでもこうして行動してくれただけで充分だ。
シリウスが作ってくれたというだけで朝食もとても美味しい。
自分で作るよりも美味しく感じるのは何故なのだろう。
ただ焼いただけのベーコンもいつもと違う気がしてくるから不思議だ。
「今日、どうする?」
「デートのお誘い?」
「俺は一日ベッドでも良いけど」
ニヤリと笑い、シリウスがティーカップを傾ける。
そんな表情にも騒ぎ出してしまう私の胸は忙しない。
「せっかくなら、出掛けたいな」
「行きたい所あるのか?」
「うーん……あ、リリーが教えてくれたマグルのお店行きたいな」
「リリーが教えてくれたって、服屋か?」
「うん。この間行ったらシリウスに似合いそうな服があったから」
どうかな、と首を傾げてシリウスの返事を待つ。
紅茶のお代わりを注ぎながらシリウスは考えている、ように見える。
「ついでに前に行ったカフェにも行くか。名前、また行きたいって言ってただろ?」
「うん、行きたい」
「決まり。食い終わったら出掛けよう」
頷いて早く食べようと手を動かしていたら慌てるなと笑われてしまった。
休日に恋人とデートに出掛けるのだからちゃんとオシャレはしたいし、何よりも嬉しい。
だから早く早くと気持ちが逸るのも仕方がないと思う。
そんな私を見るシリウスの目が優しく見えてまた胸がきゅんとした。
(20180813)
この一杯を一緒に