「ダンスパーティーでジョージと何かあったの?」


ダンスパーティーから数日経ったある日、アンジェリーナにそう質問された。
何と答えるべきかと視線を巡らせると下級生と話している双子が目に入る。


「何かはあったんだけど……ヤドリギが、」

「キスしたの?」


あの後、大広間で休憩をしながら時間になるまでダンスをして一緒に談話室まで帰った。
おやすみを言って別れるまであのヤドリギの下での出来事は夢だったんじゃないかと思う程ジョージはいつも通り。
まあ頬にキスなんて挨拶のようなものだし、ジョージもするつもりはなかったのかもしれない。
どうしても知りたくなったら本人に聞けば良いか、とその日は眠りに就いた。
しかし翌日からジョージは私と会話はするけれど絶対に二人きりになろうとしない。
しかもその会話だって以前と比べたら素っ気ないような気がする。
本当に周りは気付かないようなちょっとした変化だ。


「ふぅん、それで」


私の話を聞いたアンジェリーナは納得したように双子の方へ目を向ける。
双子はどうやらカナリア・クリームを売ったらしく満足そうだ。
しかし、不意に私と目が合って顔が強張る。
本当に一瞬の事だったけれど、直ぐにどちらがジョージか解ってしまう。
こんな事で見分けがつくようになっても全く嬉しくないのだけど。


「名前、どうしたい?」

「どう……とりあえず、ちゃんと話したいかな」

「解った。任せて」


そう言うとアンジェリーナはウインクして立ち上がった。
任せてと言っても一体何をするんだろう。




新学期が始まって暫く経った頃、次のホグズミード行きの日が貼り出された。
きっといつものように友人達と行く事になるだろう。
何か買う物はあったかなと考えていたら肩を叩かれた。


「名前、ホグズミードはもう誰かに誘われた?」

「まだだよ」

「じゃあ、一緒に行こうよ。付き合って欲しいところがあるから二人で」


アンジェリーナからの誘いなんて珍しい。
しかも二人でなんて、皆が居ると買えない物なんだろうか。
断る理由もないので頷くとアンジェリーナは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
その時、後ろを早足でジョージが通り過ぎて行った。
そんなジョージにすっかり慣れてしまったけれど流石に溜息だけは吐いてしまう。
気が付いたアンジェリーナに気にしないと言われ、苦笑いを浮かべるしかなかった。




ホグズミード行き当日、約束した通り今日はアンジェリーナと二人。
何を買うのか聞いてもちょっとねとか名前を忘れちゃったとはぐらかされている。
先程から何軒かお店に入ったけれど特別変わった物は何も買っていない。
それにアンジェリーナはチラチラと時計を見て明らかに時間を気にしている。
何となくアンジェリーナの思惑が解ってしまった。


「ねえ、三本の箒で少し休憩しない?」

「フレッドとジョージと?」

「なんだ、バレちゃった。解りやすかったよね」


試しに聞いてみるとそんな答えが返ってくる。
多分フレッドと話して決めたんだろう。
話をしたいと言ったのは私だし、素直にお礼を伝える。


「良いのよ。フレッドも気になってたみたいだし」

「フレッドにもお礼言っておかなきゃ」


三本の箒に入るといつも通り賑やかで、空いている席を見つけるのが大変だ。
注文に行ってくれたアンジェリーナの代わりに席を探す。
やっと空いている席を見つけてカウンターの方を見るとルード・バグマンとハリー、それから双子を見つけた。
ルード・バグマンは何だか急いでいるらしく、慌ただしく去っていった。


「お待たせ」

「あ、有難う、アンジェリーナ」

「二人はまだ来てないのかしら」


バタービールを手で包み込むようにしながらアンジェリーナが店内を見渡す。
そしてカウンターの前の双子を見つけたらしく、手を振って居場所を知らせ始める。
それに気付いたフレッドが驚いているジョージを引きずって此方にやってきた。


「やあ、待たせたかな」

「今来たところよ。貴方達、飲み物は?」

「俺買ってくるよ」

「いや、俺が行ってくる。アンジェリーナ、一緒に来てくれる?」

「良いわよ」


芝居がかった台詞に笑いながらアンジェリーナが頷く。
フレッドはジョージを私の向かい側に座らせ耳元で何か囁くとアンジェリーナと共にカウンターへ向かう。
ジョージは呆然と二人を見つめていて、その様子がらしくなくて思わず笑ってしまった。


「ごめんなさい。少し、おかしくて」

「……あの二人がグル?」

「うん。私もさっきアンジェリーナに聞いた」

「変だと思ったんだ。しつこく三本の箒に行こうって言うから」


ジョージは難しい顔をして何かを諦めたように息を吐いた。
思っていたよりも普通に話が出来てホッとする。
しかし、これからどう話を切り出すかが問題なのだ。
言葉を探しながらバタービールを飲む。


「……怒ってる?」

「え?」

「や、ほら、避けてただろ?」


やっぱり私を避けていたのか。
怒りはしないけれどはっきり言われるとショックではある。


「怒ってないよ。でも、理由を知りたい」

「……ダンスパーティーの日の事、覚えてる?」


考え込んでいたジョージがぽつり、と話し出す。
多分、あのヤドリギの下での事を言っているのだろう。
頷くとジョージの視線が彷徨い始めた。


「キスするつもりはなかった。名前は友達だし、何も起こらないって言ったのは本音」

「うん」

「少しからかおうと思ってあんな事聞いたけど、あの日の名前は可愛くて……気が付いたらキスしてた」


可愛くて、なんて言われるとは思っていなかったから、急に恥ずかしくなる。
誤魔化すようにバタービールを飲んで口元に付いた泡を拭った。


「何でキスしたか解らなくて、聞かれたら答えられないから、避けてた」


理由はちゃんと聞こえたし、言葉の意味もちゃんと解る。
それなのに私の頭はなかなかしっかり働いてくれない。
必死で返す言葉を探してみても何一つ浮かんで来なくて焦りばかりが積み重なって行く。
小さく謝罪の言葉が聞こえてきて、慌てて首を横に振った。


「俺、名前の事気になるみたい」

「えっと、気になるって、そういう事?」

「うん、そういう事」

「そっか……え、冗談じゃ」

「冗談じゃない」

「そっか、解った」


突然過ぎてこれ以上言葉が出てこない。
どこかぼんやりとしたまま席を空ける為店を出る。
するとジョージはフレッドを探すからと歩いて行った。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送って直ぐホグワーツへの道を歩く。
歩きながらずっとジョージの真剣な顔が頭から離れなかった。




(20170315)
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